近年ますます人気が高まっている作業療法士という職業ですが、その作業療法士の現状や将来性に関して、具体的にはわからないことも多いですよね?
それらの疑問を解決するために、作業療法士自身が自分の経験をふまえてご説明いたします。
※参考:理学療法士は将来性のある職業?高齢化社会や診療報酬で給与・待遇はどうなる?
作業療法士の現状
今現在、日本には作業療法士はどれぐらいいて、どのように働いているのでしょうか?
資格保有者の人数
2016年現在、作業療法士の有資格者は約8万人です。
特に2000年を過ぎてから、規制緩和により養成校が増え、1年ごとの国家試験受験者も増加しました。男女比は男36%、女64%となっています。
新卒者の就職率
大学や専門学校を卒業後は、調べた全ての学校で就職率100%となっています。各学校への求人数も十分あり、平均で2倍から4倍の求人があります。
就職先、活躍しているフィールド
作業療法士の就職先の内訳は、病院が69%、一般診療所が4%、介護施設サービスが11%、介護居宅サービス16%となっており、ほぼ7割が病院での勤務となっています。
作業療法士の勤務する病院や診療科目は、主に、脳神経外科など神経科、整形外科、精神科などです。
介護施設サービスは、主に老人保健施設などの高齢者の施設での勤務です。
介護居宅サービスとは、一般的に訪問看護ステーションなどに就職し、対象者宅へ訪問し作業療法を行います。
作業療法士の待遇、給与
作業療法士の待遇は、就職する施設による違いが大きいですが、多職種に比べると全体的によい、と言われています。
給与も、就職先によって差がありますが、平均的には病院の方が介護施設に比べるとやや高い傾向にあります。年収は平均で350万円から450万円ぐらいとされています。
専門職であるため、待遇も給与も比較的高水準であることが多いです。
作業療法士の将来に影響を与える社会現象
作業療法士の需要は、社会現象が大きく反映される職業です。現在の社会現象が作業療法士の需要にどのように影響しているのでしょうか?
高齢化社会
日本は、2007年に65歳以上の高齢者が全体の21%を超え、すでに超高齢化社会に突入しています。2015年には高齢者の割合が26%を超えました。そして、2025年には最も人数の多い団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となることで、2025年問題として社会全体で取り組む問題となっています。
作業療法士が多く活躍する高齢者の介護分野において、高齢者の人数がますます増加することにより、作業療法士の需要も増えると考えられています。
診療報酬や社会保障費
近年、病院などの医療機関の患者さんの回転率を上げるために、早期から作業療法などのリハビリを開始するようになり、診療報酬も増加の傾向にあります。
また、早期で退院した後、在宅での生活を充実させるための介護保険制度の導入など、高齢化社会への対策として社会保障も変容しています。在宅での介護やリハビリの場で活躍できる作業療法士は、病院以外でも需要が高まっています。
発達障害、精神障害など高齢者以外の分野
ここ数年、多く聞かれるようになった子どもの発達障害(ADHDなど)も、作業療法士の活躍が期待されています。また、精神障害に対しては、もともと作業療法は精神疾患の治療として始まりました。
現代は発達障害、精神障害ともに、これまでは障害と認められず適切な治療がされてこなかった人も、今後は診断対象となる人数が増え、作業療法士の働く場がさらに増えると考えられています。
AI(人工知能)やロボット
AIなどのロボットの技術は日々進化しています。それにより、人間が行っていた仕事をロボットが行うことができるようになっています。AIが発達し、人が作った物ともコミュニケーションが取れるようになるとはいえ、作業療法はロボットが代わりにできるものではないと私は考えます。AIのいいところはうまく取り入れつつ、人間にしかできない部分として作業療法は残っていく職業であると思います。
作業療法士の将来はどうなる?
上記のような社会現象もふまえ、作業療法士の将来は期待できるのでしょうか?
就職先、求人倍率など
病院の早期退院がすすめられることにより、就職先は、今後、さらに細かく細分化されていくと予想されます。これまで病院への就職がかなりの割合を占めていましたが、病院から様々な施設へと別れていくことが考えられます。そのため、作業療法士には個人個人でさらなる専門性が求められるようになります。
求人は大きく減ることはないと考えられますが、作業療法士の国家試験は毎年行われ、資格保有者の数は年々増加しています。求人倍率は、少しずつ下がってくる可能性はあります。
ただし、現時点での求人数は十分余裕があるため、それほど心配する必要はありません。
給与待遇
給与や待遇に関してはこれまで通り、大きく変わることはないと考えられます。就職先によって開きがあるので、自分の職場の環境があまりよくない、と思われる場合には、他の就職先を探してみることも可能です。
仕事内容
今後、作業療法を必要とする人が、病院ではなく社会で過ごす機会が多くなります。これまでの、病院の中でだけの生活ではなく、それぞれの生活スペースや環境に応じて臨機応変に目標を設定し、作業療法を行っていく柔軟さが求められます。その分、作業療法士一人一人の個性を発揮できる機会も増えます。
作業療法士が将来も魅力的な理由
作業療法士は将来においても輝いて働ける、魅力的な職業です。それはどうしてなのでしょうか?
仕事のやりがい
高齢化社会が進む中、不安を抱える人が今後さらに増えるとされています。作業療法士は、その人たちに無限の可能性を提供することができます。
作業療法の対象者にも、その人を支える人たちにもアプローチできるのが作業療法士の強みです。さまざまな思いを抱える人に寄り添い、安心感を増やしていくことで、作業療法士として社会で必要とされていると実感することができます。
仕事と家庭の両立
作業療法士は、女性が男性の約二倍です。それはなぜでしょうか?
それは現代においても根強い、男性は仕事だけ、女性は仕事も家事も、という差にあります。作業療法士は決して楽な仕事ではありません。ですが、作業療法士は生活に密着したアプローチを行います。時には女性の、同時にたくさんのことをこなす力や、こまやかな心遣いが、対象者の生活をより良いものにするために非常に役に立つのです。
作業療法士自身の日々の生活が、作業療法の現場で生かされる、これはとても魅力的なことです。
また、作業療法士は、正社員以外の働き方(パートなど)がしやすい職業です。対象者それぞれと関わる時間は、1回数十分から、と短い設定になっているので、1日の勤務時間が短くても働くことができるので、無理せず仕事と家庭の両立がしやすい職業となっています。
自身が成長できる
作業療法士は、何らかの苦しみを抱えた方と接する職業です。そういった方との関わりは、自分自身を成長させてくれると思います。
それが、その対象者の生活に直接かかわることであるから、なおさらです。
相手が人であり、何もかもがスムーズに進むことはあり得ないので、色んな壁にぶつかることがあると思いますが、それこそが自分の成長の糧です。難しい仕事ですが、大きなやりがいを感じることができる職業です。
これからの作業療法士に求められること
インターネットやスマホなどが普及し、人同士の交流が徐々に希薄になっている今、人との関わりが複雑に感じることもあります。ですが、作業療法は対象者とのコミュニケーションや信頼性がなくては前に進むことはできません。技術や知識も大事ですが、それ以上に対象者に寄り添う気持ちを大事にできる作業療法士を目指して、頑張ってほしいと思っています。
作業療法士に限らず、人は誰でも失敗しながら成長していきます。作業療法は小さな一歩の積み重ねだと思うので、対象者とも、自分自身ともじっくり向き合って進んでいきましょう。