理学療法士の国家資格を専門学校や大学で取得して、その後に大学院に進学した経験を持つ現役理学療法士が、大学院に通うメリットとデメリットを体験談をもとにご紹介します。
理学療法士を取って大学院への進学を考える
大学院に進学する必要は必ずしもない
理学療法士養成校の卒業後は国家試験を通過すれば資格を取得して理学療法士として勤務ができるため、大学院に進学する必要は必ずしもありません。大学院の進学率も低いもので、全体の6.1%にとどまっているという調査報告もあります。
大学院に進学する目的、理由は?
大学院に進学する目的や理由は様々で、学問をより深く学びたい、研究のやり方・論文のまとめ方を身につけたい、研究者になりたい、教員職になりたいなどが挙げられます。
また教育機関や教育機関が併設されている病院に勤務をしていると、教員や講師としても勤務してもらうために職場の方からから大学院へ行くようにと勧められる場合もあります。
大学院に進学するためには?
大学院へは大学を卒業もしくは4年制の専門学校を卒業して高度専門士の資格を取得していれば進学することができます。
また3年制の専門学校であったとしても大学院が行う個別審査によって学力が十分にあると判断されれば大学院へ進学することができます。3年制の専門学校を卒業している場合は希望している大学院へ問い合わせを行うと良いでしょう。
入学の難易度
入学の難易度は大学の入試に比べれば比較的簡単なところが多いでしょう。具体的にいえば、英語の論文を理解できる程度の学力があればよいです。
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大学院では学問を教わるだけでなく、自ら学問を追求する方法も学びます。自分で日本国内の書籍や論文はもちろん英文で書かれたものも必要に応じて読まなければなりません。そのため英文に対するある程度の理解力は必須となります。
大学院で学ぶ期間や学ぶ内容、取得できる学位
大学院で学ぶ期間は2年間で修士、さらに3年間学ぶことで博士の学位を取得することができます。
修士では主に研究の方法論を学びます。研究を行う上で必要となる根拠ある客観的で正確な手法、先行研究の読み解き方・探し方などを身につけることができ、臨床の現場においても自分で研究をすることができるようになります。
博士課程では研究を論文にまとめ発表をする方法をしっかりと学びます。これにより自分で研究を行うだけでなくそれを論理的にまとめて他者へ伝える方法を身につけることができるようになります。
また他にも医学知識を深く学ぶことができる講義も聞くことができます。
進学できる理学療法士の大学院について
全国に理学療法士の大学院はいくつある?
2017年時点で全国には56校の大学院があります。このうち国公立が22校、私立が24校となります。
海外の大学院という選択肢もある
海外の大学院という選択肢もあります。
日本の理学療法士と海外の理学療法士には異なる点が多くあります。働き方で言えば日本の理学療法士はほとんどが病院やクリニックに就職し、開業をすることもできません。しかし海外の理学療法士は病院やクリニックで患者の治療を行うだけでなく、例えば妊婦を対象とした理学療法、コンビニ店員の姿勢を対象とした理学療法など様々な人を対処とした理学療法を行い、また開業権を有する国もあります。
また学習方法においても違いはあります。例えば解剖学を学ぶとき日本では医学生が解剖した後のホルマリン漬けとなった臓器や骨を見て学ばせていただきます。しかし海外では理学療法学生自らが解剖をさせていただけるところもあり、関節の動き方や筋肉同士の交わり方などをより深く理解することができます。
海外の大学院を通じて、理学療法士としての広い視野を養うのも良いでしょう。
理学療法士が大学院に進学するメリット
メリット1 研究が自分でできるようになる
大学院では研究のやり方をしっかりと教えてくれるため、臨床現場においてもこの知識をいかして研究を自分ですすめることができるようになります。
メリット2 論理的思考を養える
研究の方法論や論文の書き方を学ぶにつれて自然と論理的思考を養うことができます。このような思考を養うことで他職種でも読みやすいカルテや書類を作成することができるようになったり、会議での論点をしっかりと押さえつつ話を進められるようになります。
メリット3 医学知識を深く学べる
大学院では学部で習っていた基礎医学を深く学ぶことができます。学部で行うような一般的な基礎医学に留まらず、そこから派生して教員が研究している分野の話も聞くことができるためとても興味深く、臨床でも知っておきたいような知識を得ることができます。
メリット4 養成校への就職が有利
養成校などへの就職を考えている場合は大学院への進学が就職に有利に働きます。特に大学の教員枠が希望の場合は大学院を卒業していることが条件となっている場合がほとんどとなります。
理学療法士が大学院に進学するデメリット
デメリット1 学費
大学院への進学には当然学費が必要となります。理学療法士の給料は決して高いものではないため学費の捻出は楽なものとは言えません。
デメリット2 就職に不利になる
大学院進学は就職に不利になることもあります。
大学院に進学することで就職先での初任給が上がるところもあります。大学院で学んだ知識などを求めている就職先であればよいのですが、求められていない場合では大学院卒は採用に不利となる可能性もあります。
また就職と同時に夜間の大学院に通うということを考えている場合は特に不利になることがあります。採用をする側は仕事後に大学院へ通うことで仕事がおろそかになる可能性、残業が十分にできない可能性を考えます。そのため採用試験の面接で夜間の大学院に通いたいということを伝えるとあからさまに不採用という内容を言われたという人もいます。
実際に理学療法士の大学院に通って感じたこと
大学院への進学を選んだ理由
大学院への進学を選んだ理由は、理学療法士としての個性を身につけたかったからです。当時私が就職した先に理学療法士は多くいたのですが、その中でも自分ならではの活躍できる方法を習得した方が良いと思い進学を決意しました。そこでほとんどの人が行っていなかった大学院へ進学しようと思いました。
よかったこと
大学院進学をしてみて良かったことは医学への深い理解や研究方法論をしっかりと学べたことです。
大学生のころは教授の授業を聞いていても詰め込むように知識を得ていたのですが、大学院生では基礎的な医学知識があるため教授の話を理解しながら聞けるようになり、教員も大学院では自分の得意分野(自分が行っている研究分野)を披露してくれるため講義はマニアックでとても面白いものでした。
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また研究方法論をしっかりと学べたことで臨床ではどのようにしたら研究が行えるかを考えられるようになり、実際にいくつか研究を行うことができました。
よくなかったこと
大学院へ進学して良くなかったことは心身の疲労と学費です。
私の場合は昼間に働き、夜に大学院に通っていたため休む時間が大幅に減り心身の疲労は蓄積されました。大学院の研究に忙しい時期や修士論文をまとめなければならない時期には2時間程度の睡眠という日もありました。しかし例えどのような状態であっても仕事の手は抜けません。研究は計画をしっかりとたてて、日々の負担が偏り過ぎないようこなしていく必要があったと感じています。
また学費も負担に感じることはありました。国立の大学院で半額免除を受けていたため払うことができない金額ではないのですが、やはり大学院への進学は大きな出費です。理学療法士の給料自体が決して高いものではないため、堅実に家計をやりくりしなければなりません。
理学療法士以外の国家資格で大学院に進学したほうが良い資格はある?
大学院に通ったほうがいい医療系国家資格
大学院は看護師、作業療法士、言語聴覚士、柔道整復師などほとんどの医療系国家資格において進学の道はひらけていますが、大学院に通った方が良いかどうかは、個人の考え方によるところが大きいです。
医療系は臨床・研究・教育が重要だと言われています。臨床で技術を磨くのは当然重要です。またその技術は医学的根拠に基づくものでなければならないため研究はそれを証明するために必須となります。そしてこれらを受け継いでいく後世を育成するための教育は欠かすことができません。
大学院では臨床・研究・教育いずれにも役立つ知識を身につけられます。行くことが必須ではありませんが、進学が医療職としての幅を広げてくれることは間違いないでしょう。
大学院の進学に向いている人
専門分野の研究を進めたい人
研究は考え方が不十分な状態で行うと、実験の再現性がなくなり意味のない研究となります。そのため専門分野の研究を進めていきたいという人は研究の正しいやり方を学ぶ必要があるため、大学院への進学は向いていると言えるでしょう。
養成校で教員を目指している人
養成校で教鞭をとる場合、研究指導をしなければならないこともあります。研究を指導するには大学院での知識は必須となりますし、大学教員の募集には大学院卒業が必須となっている場合が多くあります。
理学療法士としての幅を広げたい人
大学院に進学することで知識を深めることができます。その知識は当然臨床でも役に立ちます。また医学的根拠に基づく考え方や論理的思考が養われるため後輩の育成、実習生の育成に対しても学んだことを活かすことが可能です。
理学療法士の大学院でかかる学費や諸経費
国公立大学院
【入学金】282,000円
【教科書代】0円~
【1年間の授業料】535,800円
私立大学院
【入学金】150,000~300,000円程度
【1年間の授業料+諸費(施設管理費など)】700,000~1300,000円程度
国公立大学院の場合は比較的学費は抑えられますが初年度は80万程度費用が必要となります。私立大学院の場合は学校によって差はありますが初年度で約100万円程度は必要となります。
いずれも授業料免除の申請を行うことができますので、学務に問い合わせてみると良いでしょう。
大学院に関するQ&A
大学院はどのように選んだらよい?
大学院の選び方においては、自分が大学院で何をしたいのかを明確にすることが重要です。
例えば基礎医学の研究がしたいというのであれば名古屋大学はラットを用いた基礎医学研究が有名ですし、金沢大学でもラット研究は積極的に行われています。
また目標とする教員がいる大学院を選ぶというのもよいです。最近では首都大学東京の竹井仁先生が筋膜リリースで有名となっていますが、このような有名な先生や目指したい先生の近くで学べることは非常にいい刺激となり講義も興味を持って聞くことができます。
臨床経験は必要?
大学院の進学に当たって臨床経験は必要ではありません。
しかし臨床経験によって自分が得意とする分野、興味が湧いてくる分野、日ごろ疑問に思うことなどを感じることができるため研究テーマをしぼりやすくなります。
また研究は臨床でいかすために行うものです。臨床で養った視点は研究に役立つものとなります。
大学や専門学校での成績は関係ある?
大学や専門学校での成績は関係ありません。入学に際しては試験があり、その試験を通過することで進学をすることができます。
大学院の受験方法は?
大学院を受験するには出願が必要となります。また多くの大学が出願前に教員との事前相談が必要で、メールなどでの問い合わせをしなければなりません。
修士課程まで取ると給料に影響しますか?
給料に差がないというところがほとんどです。
通信や夜間コースで大学院に通うことはできる?
通信制はありませんが夜間コースはあります。勤務先に理解があれば昼間に理学療法士の正社員として勤務して夜間に大学院に通うということは十分可能です。
大学院へ入学する前に気をつけておきたいことは?
学費を捻出できるか、研究したいテーマについては考えておいた方が良いです。
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また働きながら夜間に大学院に通う場合は勤務先との相談は必須です。そしてスケジュール管理が可能かどうか、仕事に支障をきたしてしまわないか(体力面も含めて)などを考える必要があります。
まとめ:理学療法士の大学院へ進学するか迷っている人へ
大学院への進学は知識を深めたり思考力を養ったりすることができ、理学療法士としての幅を広げてくれます。しかし一方で大学院を中退する人も少なくないです。特に昼間に勤務をしながら夜間の大学院に進学する場合は覚悟が要ります。
なぜ大学院に進学したいのかを考え、そして目指すものがそこにあるのであればきっと進学は将来の役に立つでしょう。