医療職は、患者様のために様々な職種がそれぞれの専門分野について協力し合い、一つの医療を提供するチームです。
基本的には医師の指示のもと、看護師、薬剤師、検査技師、理学療法士などが動くという構図がありますが、その中の人間関係が良好であり、うまくコミュニケーションを取れることでよりよい医療が提供できることになりますので、医療職内の人間関係は大変重要です。
今回は理学療法士に着目し、理学療法士同士、他職種、患者様との人間関係についてのポイントや実際にあったトラブルについてご紹介したいと思います。
理学療法士の人間関係
理学療法士が主に付き合うことになるのは同じ職種の同僚、病院内の他職種の方、患者様、患者様のご家族ということになります。
どの立場の方ともうまくコミュニケーションをとり、良好な人間関係を築かなければ本業である理学療法をスムーズに進めることはできません。
そこで、それぞれの立場に分けて人間関係のポイントをお伝えします。
医師、看護師、他職員との人間関係
理学療法士は、「ケガや病気で身体に障害がある人に対し、その原因を分析し治療したり、回復を促すような運動を行う動作の専門家」です。
患者様の病気やケガを中心となってみている医師や普段身の回りのことに携わっている看護師が、理学療法士に対して「○○さんはあと○○ができるようになったら退院できるからリハビリよろしく」という具合に任せ、リハビリでできるようになったことは「○○さんは○○は自分でできるので病棟でもやってもらうようにしてください」と看護師や介護士に引き継ぐことができれば理想的です。
しかし、医師や看護師など他の医療職の方に理学療法士の本質や専門性をまだまだ理解してもらえていないのが現状で、「運動させる人」「マッサージする人」といった簡単な職業と勘違いされている部分があります。
同じ病院内で、一つのチームとして同じ患者様を支援していく上で、理学療法士がそのような職業であると思われていると、なかなか患者様の状態改善にとって重要な存在であると思ってもらえません。
ですから、理学療法士は日頃から他職種の方とコミュニケーションをとることが大切です。
共にみている患者様の状態について理学療法士の目線でみてどうなのか、何ができるようになるためにどんなリハビリをしているのか、また他職種の方からみてその方の状態がどうなのかということを意見交換することで徐々に理学療法士への理解と信頼が深まるのではないでしょうか。
同僚、上司との人間関係
多くの理学療法士が人間関係に悩む相手として同じ理学療法士の同僚や上司との人間関係があります。
原因はそれぞれ違うかと思いますが、理学療法士ならではの原因として「手技・手法の不一致」があります。
理学療法には運動療法、物理療法、徒手療法など色々な治療法があり、担当するセラピストが患者様の状態や医師からのリハビリのオーダーに合わせてリハビリ内容を選択していきますが、それぞれの療法の中にも筋力改善訓練の方法、可動域拡大訓練の方法など色々な手技・手法があります。
ある程度、経験のある理学療法士は教科書的な内容に加え、自分の経験や研修会での知識などを活用して自分なりのやり方を確立してきます。
しかし、それを同じフロアで見ていた上司がリハビリのやり方が不適切である、指導していることと違うといったようなことを口にすることがあります。
実際に、その上司の言うことが正しいこともありますが、担当理学療法士のやっていたことが正しいにも関わらず、自分の知らない方法だから、自分の嫌いな手技だからということでそのようなことを言うこともあります。
そうなると、若手の理学療法士は自分が研修会などで得た知識や手法を十分に発揮できないことになり、治療中も委縮してしまったり、技術の向上ができないことになってしまいます。
そのようなことを防ぐためには、理学療法士同士が日頃から意見交換や外部の研修会で得た知識の情報共有をするようにし、上司、部下の垣根を超えて一人の理学療法士としてお互いを認め合える存在になることが重要だと思います。
患者様、そのご家族との人間関係
理学療法士として働くうえで、同僚の理学療法士や院内の他職種の方との人間関係も大切ですが、理学療法を提供する相手である患者様やそのご家族との人間関係を忘れることはできません。
患者様にとって理学療法士は入院中であればほぼ毎日、通院であっても一度のリハビリで何十分という間1対1で過ごすことになるので、多くの場合、医師や看護師と過ごす時間よりも長く密な人間関係を持つことになります。
また、自分の痛い場所、動きにくい場所を触らせる相手にもなるので、しっかりとした人間関係ができていなければよい理学療法は提供できません。
患者様からしっかりとした信頼を得るためには、患者様の痛みや不自由なことに対する気持ちに寄り添うこと、病気やケガに対する正確な知識を持ち、今後の経過やできることできないことをきちんと説明できること、患者様の家族や生活背景など必要な情報を得た上で適度な距離を保ち、誠実に向き合えることなどが重要になってきます。
また、患者様のご家族にとっても大切な家族の身体を任せる理学療法士として信頼してもらえれば、前向きな気持ちで患者様を励ますことができると思います。
特に、子どもや高齢者にとって家族からの声掛けはとても重要で、リハビリの存在を重要視して患者様を励ましてもらえるとスムーズに進みます。
よくある人間関係トラブル
結婚・出産を経験して職場復帰した女性理学療法士の体験談
理学療法士免許を取得してから病院に勤務し、結婚、出産を経験しました。
一年の育休も取ることができ、再びその病院に復帰してからのことです。
保育園の迎えもあり、17時には退勤できるような勤務体系にしてもらっていたので、業務終了後にスタッフ間で行うような勉強会などには出席できていませんでしたが、産休前の知識や技術を使いながら仕事に励んでいました。
しかし、ある男性理学療法士の上司に勉強量が足りないと言わんばかりに治療に対する注意を頻繁に受けるようになりました。職場でも手を抜かずに仕事をし、家に帰れば初めての育児を一生懸命こなしていた中でのそのような上司からの扱いでしたので、かなりの精神的ダメージを受けました。ついには、子どもの前で涙がでてしまうようになり、このままでは家族にも悪影響を及ぼすと考え、離職を決意しました。
その後すぐに、子育て経験者の女性の多い職場に転職することができ、日々の生活にストレスなく仕事をできるようになりました。
人間関係が原因で離職する人はどのぐらいいる?
患者様との人間関係は比較的短期から中期的なものなのであまり離職の原因になることはありませんが、前に述べたように上司である理学療法士のパワハラのような態度に自分がよいと思う治療ができなかったり、仕事にやりがいを感じられなくなり、離職や転職に至るケースもあります。
離職、転職の原因はもっと自分が専門的に学びたいことが学べる職場に就きたいということや女性の結婚や出産もありますが、人間関係が原因となることもあります。
理学療法士は国家資格であり、現段階では、ありがたいことに仕事内容や待遇をあまり選ばなければ理学療法士として転職することはさほど難しくありません。
離職して無資格の別分野で働くよりは再び理学療法士として転職する方が給与などの待遇もよいため、離職したとしても理学療法士としての転職をする方が多いようです。
人間関係で悩んだら
理学療法士に関わらず、職場での人間関係に悩む方は多いと思います。
ここでご紹介する人間関係の打開策で解決できる問題ばかりではないと思いますが、少しでも参考になればと思います。
自分の考えていることを話してみる
人間はそれぞれ別の人物なので、相手の考えていることは容易には理解できません。ましてや、仕事上での付き合いとなると必要最低限の会話のみになってしまいがちなので、相手がどんな考えを持ってその行動をしているか理解するのは難しいでしょう。
人間関係の上手くいっていない相手とは距離を置いてしまいがちですが、ときには腹を割って自分の治療に対する考え、方針を相手に伝えてみることも必要かもしれません。
また、仕事内容以外のプライベートなことなども少し話すだけで、自分の置かれている環境や状況が伝わりやすくなり、相手に理解してもらえることも増えるかもしれません。
当本人と話すことが難しい場合は、同僚や上司など同じ職場内の関係が良好な相手に話してみるだけでも違うと思います。自分が気づいていなかった悪い点を指摘してくれたり、他の見方に気づかせてくれるかもしれません。
また、職場内によい人間関係を築けている人が増えれば多少の人間関係の苦労も気にならなくなってくるかもしれません。
是非自分の中だけで悩まず、他者に相談してみましょう。
相手の立場に立って考えてみる
人間は、誰でも自分の立場で物事を考えることが第一になってしまいますが、相手の立場になって考えてみると気持ちが分かることもたくさんあります。
例えば、同じ理学療法士であっても若手理学療法士と管理職であるベテラン理学療法士は考えていることも違うことが多々あります。
若手理学療法士は、目の前の患者様に最善のリハビリを提供すること、自分の持ちうる知識や技術を全て注ぐことを最優先に考えることが多く、もちろんそれは優良な理学療法士になるために大切なことです。
しかし、一方のベテラン理学療法士は目の前の患者様に最善を尽くすことはもちろんのこと、効率よくたくさんの患者様をみることやリスク管理、その他諸々のことを全て踏まえて物事を見ています。経験の少ない理学療法士が全てに配慮してよい仕事をするのは難しいことですが、少し引いた目線で全体を見てみると上司の言っていることも見えてくるかもしれません。
また、これは病院内の他職種の方との人間関係においても言えることです。
理学療法士はリハビリを通して患者様と接することが全てなので、その時間を最優先してしまいがちだったり、病棟に戻った時の患者様の生活に対しても理学療法士の目線だけで看護師や介護士にお願いごとをしたりしてしまうことがあります。
しかし、看護師や介護士にはそれぞれの都合があり、患者様にも入浴や食事、検査などリハビリ以外のスケジュールがあります。そのあたりに配慮することができないと他職種の方との人間関係が上手くいかず、連携がとりにくくなってしまうのでやはり相手の立場に立って考えてみることが重要です。
悩んだらまずは誰かに相談しよう。退職するのは「負け」ではない
人間関係は、職場だけでなく家族や親戚、友達など他者と関わっていく上では常に重要な問題です。
家族や親戚は、なかなか付き合いをやめるというわけにはいきませんが、職場での人間関係は退職することで回避することができます。
幸いにも、理学療法士という職業は専門職であり、理学療法士内での転職は比較的しやすい職業です。今の職場を退職しても自分がやりがいを持って仕事ができる環境はきっとみつかると思います。
ですから、周りの方に相談したり、自分なりの対策を講じてみても人間関係が好転しない場合は、転職を考えるのも一つの方法だと思います。