作業療法士を目指す方にとって、気になることの一つに「人間関係」があると思います。作業療法士はどのような人間関係の中で働き、どういったことに注意が必要なのでしょうか?
現役作業療法士が教える、職場での人間関係についてお話しします。
作業療法士の人間関係
作業療法士は具体的にどのような人間関係の中で働いているのでしょうか?
他職種のスタッフとの人間関係
作業療法士は多くの人が病院や施設で働いています。私も精神科の病院に勤めていましたが、やはり作業療法士の人間関係で一番難しいのは多職種のスタッフとの関係だと思いました。
作業療法の観点からみた患者さんへの接し方、ケアの仕方と、例えば病棟での看護師さん、介護スタッフ、とは異なります。お互いの職種ごとに配慮する点が異なることで、多職種の理解が得られず人間関係が悪化することがあります。
多職種のスタッフとは、それぞれ活動時間などのリズムが違うので、連携にも時間差が生じるなど、人間関係というより業務上の連携の難しさがあるように感じます。
色んな職種が合同で会議をすることがありますが、病院では医師と看護師、施設では介護士や社会福祉士の意見が強く反映されることがあるなど、施設ごとに特徴があることもあります。
同僚、上司との人間関係
作業療法士どうしの職場内での人間関係において、上司や同僚との関係は、それ以外の仕事で働いている人と変わりありません。人付き合いのうまい人もいれば、そうでない人もあります。上下関係の厳しい人や、怒ると怖い人、いつも誰にでも笑顔で接することができる人、働く職場しだいになります。
患者さんとの人間関係
患者さんとの人間関係は、作業療法士が働くうえでの基本的なことです。お互いに信頼関係を築くことができるかどうかで作業療法の治療効果は大きく変わってきます。
障害を抱えいろんな思いで過ごす患者さんにとって、生活そのものに関わる作業療法士の存在はとても大きいと思います。人間同士なので、また、年齢が随分離れていたり、病気や障害の影響などによって、時には良好な人間関係が困難なことも当然あります。そこで、作業療法士一人一人がどう関わるか、それも作業療法士の腕の見せ所だと思います。
患者さんの周りの人との人間関係
作業療法士が関わるのは患者さん本人だけではありません。そのご家族や、患者さんと関わる色んな人と関わる場合があります。
患者さん本人と、そのご家族や周りの人との思いが違う、ということがあります。患者さん自身の人間関係にも作業療法士が介入しなくてはならない時、難しいと感じることがあります。
経営者との人間関係
最近では、訪問リハビリステーションなど、規模の小さめの施設で働く作業療法士も増えてきました。そこでよくあるのが経営者との考え方の違いです。小さな施設の場合、スタッフ一人一人の意見が反映されやすい反面、意見の合わない人とも対立も目立ってしまいます。経営方針などの事情と作業療法士としての意見に食い違いが出て、人間関係に悩むことがあります。
人間関係で悩む作業療法士の特徴
私がこれまで出会った作業療法士の人たちは、根がとてもまじめな人が多いです。
責任感が強く、細かいことにも配慮できるので、患者さんの困っていることにも真剣に向き合うことができます。ただ、その分、人間関係についても細かな部分が目につきがちなところがあります。「人間だから、これぐらいのことはあって当然!」と頭ではわかっていても、どうしてもさらっと流せない、そういうタイプの人は人間関係にも悩んでしまうのではないかと思います。
気軽に相談できる人が身近にいると、ずいぶん気持ちも楽にはなると思います。しかしそれができなかったり、さらに、自分で何とかしたい、もっとうまくいくようにしたい、と思い悩む人は、人間関係にも神経をすり減らしてしまうのだと思います。
人間関係が原因で離職する人はどのぐらいいる?
作業療法士は、転職(作業療法士として別の職場へ)が比較的多い職種ですが、その理由は様々です。
- さらに上の給与や待遇などを求めて
- キャリアアップを目指して
- 作業療法士として別の分野への興味があるため
- 生活の変化(転居・結婚・出産など)に伴って
- 人間関係の問題があるため
これらがいくつか重なって転職を希望する人が多いです。
実は、私が勤務していた病院の同僚男性二人も、現在は別の勤務先で働いています。ですが、その理由は人間関係ではなく、一人は自ら訪問リハステーションを設立したため、もう一人は通勤距離が近くより待遇の良い施設への転勤でした。
専門学校を卒業して十数年になりますが、私の同級生、特に女性は初めに就職した勤務先ではなく、物の勤務先で働いている人がほとんどです。つまり、作業療法士の離職・転職率は他の職種に比べて高いです。そして、転職する理由の一つに、人間関係が含まれていることは決して少なくはありません。作業療法士の求人はまだ多くあるので、人間関係の悩みだけであったとしても、無理して同じ所に居続けるのではなく、新しい環境を探すことができます。
よくある人間関係トラブル
作業療法士に起こりやすい人間関係のトラブルとは、具体的にどういったものなのでしょうか?
他職種とのトラブル
例えば、病棟の看護師さんはお薬の飲み方や病棟での過ごし方を管理しているので、比較的厳しく接している方がおられます。作業療法士が、ある患者さんについて、「このように自分でできるように促してください」と声かけをすることがありますが、その際、病棟での管理上難しいと同意が得られず苦労することがあります。
医師に対しては、作業療法士は医師の作業療法指示のもとで作業療法を行うため、患者さんに対する治療の方向性などにずれが生じることがあります。
患者さんやその家族などとのトラブル
作業療法士が親身になって接することで、患者さんが好意に似たものを持ち、それがエスカレートする、ということがあります。ほとんどの場合、一時的なものであったり、他のスタッフとの連携により解決します。
訪問リハにおいて、作業療法士が一人で訪問する際、患者さん本人やその家族と様々なトラブルが起こることがあります。特に女性作業療法士の場合、注意が必要です。緊急の際の対応はしっかり準備しておく必要があります。
上司・同僚とのトラブル
どこの職場でも同じですが、作業療法の世界でもパワハラやセクハラなどが起こる可能性はあります。
人間関係で悩んだ時の対処法
実は、人間関係に問題が生じた時、自分は悪くないことも多いです。人間関係に悩む人の多くは、「自分が悪かったのだろうか?」と気にしています。そんな時、相手の方はというと、自分が悪いなどと全く思っておらず悩んでもいない、ということがあります。
どうしてもうまくいかない、という場合、できるだけその相手とは感情を抜きにして表面上の付き合い、事務的な付き合いをするように心がけましょう。合わない人というのは誰にでも必ずいます。自分にとって、無理して付き合わなければならない相手なのかどうか見極める力、それを養うことも大切です。
解決しにくい悩みは、一人で考えていてもなかなか解決しないものです。精神衛生上もよくありません。可能な限り、誰かに話すようにしましょう。話すことで自分の考えがまとまってくることもあれば、話した相手にアドバイスをもらえることもあります。話す相手は誰でもかまわないので、一人で溜め込まず、外に吐き出すようにしましょう。
それでも人間関係を続けていくことが難しい、という場合は勇気を出して転職しましょう。十分考えた結果解決しない人間関係のトラブルは、長引かせるだけ損です。作業療法は転職できる仕事です。
ただし、一つだけ注意が必要なことがあります。それは、頻繁に患者さん本人とトラブルが起きるという場合です。そのような場合は、作業療法を進めるうえで解決しなければならない問題が生じています。患者さんとどのようなことでトラブルが起こっているのか、冷静に分析し、同僚や親しい人に相談する必要があると思います。患者さんとのトラブルは、作業療法士だけでなく、患者さんにも大きなストレスを与えており治療の妨げになっていることを自覚する必要があります。
悩んだらまずは誰かに相談しよう。退職するのは「負け」ではない
人間関係は、人間が生活するうえで誰しもが直面することです。作業療法士が特別強く抱える問題ではないのです。
人間関係の悩みは、ほとんどの場合、一人で考えて解決できるものではありません。さらに、思い詰めすぎてよくない方向へ向かうことが多い悩みです。人に話すのが恥ずかしいことでもありません。悩み始めたらまず一番に、誰かに話すようにしましょう。
誰かに話しても、問題が一向に改善しない、という場合には、逃げるが勝ち、退職するのが最善の策です。作業療法士は、退職したらお先真っ暗な職業ではありません。くれぐれも、思い悩んで一人で苦しむのではなく、解決策があることを覚えておいてほしいと思います。