理学療法士は医療職で安定感があり、そこそこ給料の良い仕事という印象を一般的には持たれているようです。しかし実際はそうというわけではありません。ここでは病院と介護福祉施設での勤務経験がある理学療法士が、理学療法士の年収・給料について説明していきます。

理学療法士の年収

仕事を選ぶ上で重要なポイントとなるのが年収です。年収は日々の生活に大きな影響を与え、結婚・出産などでライフステージが変化すればより一層その重要性は増していきます。日本人の平均年収は平成27年に行われた国税庁の調査から計算すると約420万円です。では、理学療法士の年収はこれに比べてどの程度に位置しているのかみていきましょう。

平均年収、給料はどのぐらい?

平成27年に厚労省で実施された統計調査によると理学療法士の平均給料は28.4万円、賞与63.9万円という結果がでており、これより計算をすると理学療法士の年収は404.7万円となります。日本人の平均年収は約420万なので、理学療法士の年収は大よそ平均レベルと言えます。

同調査で理学療法士の年収を年齢別にみていくと20~24歳で327.8万円、25~29歳で395.4万円、30~34歳で425.9万円、35~39歳で460.5万円、40~44歳で494万円、45~49歳で531万円、50~54歳で587.8万円、55~59歳で588.1万円、60~64歳で518.6万円です。

初任給は?

平成26年に福岡県にある専門学校で行われた学校に集まった求人を対象とした調査では、理学療法士の平均初任給は23.5万円という結果となりました。

【引用元 参照ページ】

理学療法士の給与(給料)と将来性

平成26年の厚労省で実施された統計調査では高卒の平均初任給は15.8万円、高専・短大卒が17.4万円、大卒が20万円、大学院卒が22.8万円なので、比較すれば理学療法士の初任給はやや高めと言えます。

ただし初任給は就職先によって大きく異なります。介護施設系の勤務であれば初任給は高めな傾向があり、25万~30万円での求人がみられます。一方で試用期間が設けられている勤務先も存在し、このようなところでは初任給が手取りで12~13万円程度ということもあります。また公立病院などは地方公務員と同様の給与となるため、手取りで大体15万円程度のところが多いでしょう。

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給料の詳しい中身について(残業代、手当など)

給料の中には基本給以外にも残業代や手当が含まれます。

残業代に関しては厚労省で実施された同様の調査より、理学療法士の残業代は1万円と計算されます。理学療法士の時給が大体2000円程度なので、月5時間程度の時間外勤務が就労先より認められていると推測されます。

ただし実際の残業(業務と自己研鑽の線引きが曖昧となりますが…)は月5時間以上ということが多く、勤務時間後にはカルテや書類、担当する患者様に関する専門職同士の話し合い、勉強会、調べもの、研究などが行われます。休日も学会や勉強などに行くことがありますが、就職先によってはこれらに対して全く手当や補助を出さないというところもあるため、職場探しでは事前にチェックをしておくとよいです。

手当に関しては住宅手当、交通費、資格手当、場所によっては寒冷地手当などが支給されることがあります。

他の医療職と比較した給料

理学療法士の給料は日本人の平均年収からみたら平均的なものということが分かりましたが、他の医療職の給料と比較するとどうなのでしょうか。平成27年に厚労省で実施された統計調査結果より調べていきます。

医師

医師の平均給料は84.8万円、賞与は80.1万円です。これらより平均年収を計算すると1097.7万円で、理学療法士の平均年収より2.5倍以上の高額年収となります。

看護師

看護師の平均給料は32.9万円で、賞与は83.2万円です。これらより平均年収を計算すると478万円で、理学療法士の平均年収より高めの年収となります。

作業療法士

厚労省では作業療法士と理学療法士は一括りとなって給料・賞与が調査されており、給料関係は理学療法士と大差がないと考えられます。

介護福祉士

厚労省の調査では福祉施設介護員の給料が調べられておりその平均給料は22.3万円、賞与は47.9万円で、これらより平均年収は315.5万円となります。福祉施設介護員の対象には介護士も含まれるため、介護福祉士ではこれよりやや高めの年収になることが考えられますが、理学療法士の平均年収より低めのものとなります。

その他

X線検査などを行う放射線技師では平均給料が36.8万円、賞与が91.5万円、これらより年収は533.1万円と計算されます。また血液検査などを行う検査技師では平給料が31.9万円、賞与が85万円、これらより年収は467.8万円と計算されます。どちらも理学療法士の平均年収より高めのものとなります。

理学療法士の給料は上がる?(上げる方法は?)

理学療法士の給料は決して高いものではありません。しかし理学療法士を続けながら、何かしらの方法で給料を上げることはできないのでしょうか。ここでは理学療法士の将来性やキャリアアップについて考えていきましょう。

将来性

理学療法士の給料面での将来性は近未来における期待は難しいでしょう。

一般的に給料は需要と供給の関係で導きだされるとされています。供給に対して需要が大きければ給料は高い傾向がみられ、需要に対して供給が大きければ給料は低い傾向がみられます。

理学療法士の場合は高齢化社会により需要が高まってはいるのですが、供給も急速な高まりをみせています。理学療法士の人数は年々増え続けおり、理学療法士協会の会員数でいえば平成12年は23,303人だったのに対し平成29年では90164人で、20年足らずの間に会員数は3.8倍にまで増加しました。

一方で高齢者人口のピークは2040年と予想され、それ以降は減少するとされています。理学療法士の人数がそれに伴い減少するということはまずないので、近未来においては需要に対して供給が大きくなるということが考えられます。

また高齢化社会による医療費・介護福祉関係費増加から国の財政が圧迫され、これにより診療報酬や介護報酬は減らされていくことが考えられます。理学療法士の給料はこれら報酬により支払わられているため、診療報酬や介護報酬が減らされてしまえば理学療法士の給料は減少してしまうということも考えられるでしょう。

ただし、これからの理学療法士の活躍によっては将来性が期待できる可能性もあります。

理学療法士の職域は広がりを見せておりスポーツ分野やマスメディアでも活躍する理学療法士が現れ始めました。職域が広がれば新たな需要の開発につながり、理学療法士の価値は高まります。

また国からも理学療法士の活躍が期待されている新しい分野として介護予防分野があげられます。

理療法士は法律により医師の指示がなければ“理学療法士”と名乗ることができなかったのですが、平成25年に厚労省より介護予防分野においては医師の指示がなくても“理学療法士”として名乗ることができるという通達がされました。些細な変化に聞こえるかもしれませんが、これは理学療法の歴史的には大きな変化といえ、国から介護予防分野における理学療法士のニーズが認められたということを意味します。

今、国は医療費・介護福祉関係費の削減を目的に介護予防に力を入れているため今後の方針によっては理学療法士の需要が更なる高まりをみせるかもしれません。

キャリアアップ

理学療法士のキャリアアップには昇格、転職の手段が考えられます。

昇格に関して理学療法士の場合は、同一職場で働き続け経験を積めば主任や部長といった役職を与えられることがよくあります。業務内容に職場の管理・運営が加わるため大変さが増しますが、昇給や役職手当をもらえることができます。

転職に関しては、今より給料が高い職場を探し再就職するという方法があります。病院・福祉施設は分野が同じであっても給料には高い低いがあります。給料面で満足しなければ新しい職場を探すというのも良いでしょう。

確実な昇給・昇格を狙うのであれば公立病院や国立病院への転職がおすすめです。病院・福祉施設では昇給が非常に少ない(500円というところもあります)ことがしばしばありますが、公立病院や国立病院に就職すれば公務員として勤務することができるため給料形態も年功序列で働くことができます。

また求人は少ないのですが理学療法士養成校の教員は一般的な理学療法士より給料が高い傾向にあり、教職に興味があるのであればキャリアアップとして良い転職先となるでしょう。

独立・開業

理学療法士の場合、法律によって原則医師の指示がなければ“理学療法士”と名乗ることは許可されていません。そのため理学療法士として独立・開業をすることはできません。

しかし理学療法士として独立・開業をすることはできなくても、整体師やジムのオーナとして開業をする人はいます。また福祉施設を開設する理学療法士もいます。独立・開業が上手くいけば給料アップも十分にのぞめるでしょう。

ただし理療法士の場合、独立・開業に対しては注意が必要です。理学療法士は学校では医学は学びますが、独立・開業に関する知識は全く学びません(独立・開業が許可されている柔道整復師は授業で独立・開業に関する知識を学ぶことがあります)。独立・開業にあたって理学療法士の場合は十分な勉強が必須となります。

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職場によって給料は異なる?

職場の分野によって理学療法士の給料は異なる傾向があります。病院やクリニックでは年収350~400万程度、福祉施設では350~450万程度、訪問リハビリでは350~500万円以上という調査がされています。

実際に周囲を見渡してみても病院やクリニックより福祉施設、福祉施設より訪問リハビリの方が給料が高いという印象があり、どの分野で勤務するかは給料面においてとても重要と思われます。

給料だけでは語れない理学療法士の魅力

理学療法士の給料については、今までの説明で理解できたかと思います。決して高いものではない、これが理学療法士の給料の現実です。では給料面での魅力はそれほどなのに、なぜ理学療法士は理学療法士を続けるのでしょうか。実は理学療法士には給料だけでは語れない理学療法士の魅力があるのです。

やりがい

理学療法士は困っている人に寄り添い、助けること、そしてその人を笑顔にすることもできる、やりがいのある仕事です。

理学療法士は他の医療職と異なり理学療法を通じて対象の方と1対1で接する時間を多くとることができます。そのため相手の話をじっくりと聞くことができ、困っていることやしたいこと、日々の生活の状態や不安・楽しみといった気持ちなどを知ることができます。

これらをリハビリテーションの観点からより良い状態に戻していけるように理学療法を行います。日々、対象の方の「できない…」などといった辛い表情が「できた!」という笑顔の表情に変わる瞬間に遭遇することができ、その都度喜びを共有でき、また人の役に立てたという幸せな気持ちになることができます。

人を回復させることができる

理学療法は人を回復させること(自己治癒力を高めること)ができる施術です。解剖学・生理学・運動学・運動学習などの知識を総動員して人を根本から施術していきます。

なぜ身体の動きが低下したのかから始まり、原因となっている筋肉・関節に手技・運動指導などを施し状態を良くしていきます。筋肉の動きなどに働きかけるため身体がその動き・働きを習得すれば持続的に快方状態を保つことができるようになるため、治った状態に近づけることができます。これが理学療法の魅力です。

何かしらの施術を行う店ではしばしば常連客から「施術をしたら良くなったし、毎週通っている」という言葉がきかれますが、理学療法の場合は本人にいかに良い状態をキープさせて「通院しないでも大丈夫!」と思える状態までもっていくかを考えながら施術を行います。根本から良くして、本人が不自由だと感じている状態からの解放をめざす施術といえるでしょう。

そのため対象の方に自分の施術がぴったりとはまれば状態はぐんぐんと良くなり、「病院に行くの忘れてた」、「もう病院に来なくていいと思うの」と笑顔で言ってもらえるまでになることもあります。

人を回復されたときの喜びはひとしおです。だからこそ休みの日でも勉強をしようか、本を買いにいこうかと自己研鑽に励むことができます。

安定している

理学療法士は就職・転職に困ることはなく、また働き出してからも病院・福祉施設という組織は安定しているため職を失うということはほぼありません。

理学療法士の人数は増えてはいるものの、その就職活動は一般的なものと比べたら非常に楽です。希望通りの職場に1発で就職できるということも少なくなく、必ずどこかには就職をすることがでるでしょう。

また病院・福祉施設という組織においては就職後にリストラをされる、倒産して失職するというリスクが非常に低いため、安心して働くことができます。

働きやすさ

理学療法士は日勤のみで夜勤がなく、また時間外業務が多いこともないため比較的働きやすい職種といえます。また女性であれば産休・育休の取得もしやすいため、たとえライフステージが変化しても働き続けることができます。

まとめ

理学療法士の年収・給料は決して高くはありません。私が学生のころは教員に「稼ぎたければ就かない方が良い仕事だ」と言われたこともあります。

しかし仕事の魅力は年収・給料だけではありません。理学療法士の仕事は理学療法を通じて困っている人を助けることができ、笑顔にすることもできる、他人の役に立てる大切な仕事です。仕事を通じて感じる喜びや達成感もひとしおです。給料面でなかなか魅力を感じられない理学療法士ではありますが、理学療法士が理学療法士を続ける理由はここにあるのだと思います。

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