皆さん初めまして。作業療法士のかずゆきです。こちらの記事を読んでくださっている方のほとんどは、作業療法士を目指す学生やその保護者様、もしくは、臨床実習指導をこれから経験する新米作業療法士の方がほとんどだと思います。

私も専門学校に通っていた際は、作業療法士の資格を取るために、一生懸命頑張るぞ!と意気込んでいる学生や、単位のためにとりあえずはこなさないといけない・・・と後ろ向きな学生が多々いたことを覚えています。

しかし、理学療法士・作業療法士を目指す学生に必ず訪れるのが、「臨床実習」です。そんな臨床実習のいろはについて、現役OT(作業療法士)の目線から読み解いていきたいと思います。

【目次】

  1. 作業療法士の臨床実習について
  2.  臨床実習で求められること
  3. 臨床実習前に準備しておきたいこと
  4. 臨床実習で気をつけておきたいこと
  5. 臨床実習を体験した現役OTの体験談
  6. 臨床実習を行う病院(施設)のメリット
  7. 臨床実習で挫けそうになったときは・・・
  8. これから作業療法士を目指す方へ

※【参考】理学療法士の実習について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください

作業療法士の臨床実習について

作業療法士の臨床実習とは?

作業療法学科における臨床実習とは、主に3年生専門学校であれば3年次の4月~10月にかけて実施され、4年生専門学校、大学の場合は、4年次の4月~10月に実施されます。

その多くは、8週間~10週間の実習期間がとられ、委託された病院、施設などで、作業療法を学んだり、社会人として礼節について指導されます。

実習対象者

各々の専門学校、大学によって教育システムが異なりますが、大半の学校では最終学年に進んだ学生対象に実施されるものです。しかし、重篤な感染症や、実習を満足に遂行することができないと判断される原疾患を有している場合は、実習先からNGが出たり、学校側から中止の判断を下されることがあります。

実習先について

実習先については主に4領域で構成されています。

  1. 身体障害領域
  2. 精神障害領域
  3. 発達障害領域
  4. 老年期障害領域

の4つに大別されています。

この4つの領域からなる、病院、施設、事業所など、作業療法士が勤める場所が、主な実習先に選ばれることが多いです。その多くは、過去に卒業生が就職したり、学校の講師のつながりがあるなど、全く関係性のない場所が選ばれるケースは稀です。

しかし、現在、養成学校が乱立している背景もあり、実習先確保が養成学校における問題要素のひとつになっています。場合によっては、関西に住みながら九州の学校に実習に行くなど、遠方で一人暮らしをしながら実習を経験する学生もいます。

臨床実習で求められること

バイザーとの関係作り

臨床実習では、必ず指導者が学生1人対して1人付き添います。その指導者を、臨牀共育指導者(スーパーバイザー)と呼んでいます。

臨床実習において、バイザーとの関わりは、実習の合否に大きく関わる・・・というのが今までの実習でした。しかし、昨今、実習生の自殺問題や、過労などがニュースに取り上げられるようになり、バイザーとの関係が悪くても、実習合否には関わらないケースがほとんどです。

ただし、バイザーも人ですので、「この学生には教えてあげたい」「なんとかしてあげたい」と思わせるような、学生としての立ち振る舞いは最低限必要です。こちらについては次の項で紹介します。

対象者とのコミュニケーション

対象者になる方のほとんどは、御高齢の方が多く、学生よりも人生経験豊富な方ばかりです。学生の中には、友達と話す調子で話してしまったり、反対に、緊張しすぎて全く話せなかったりする学生もいます。実習をこなす上で、最低限のTPOに沿ったコミュニケーション技能は必要不可欠です。


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レポート作成技能

昨今の臨床実習のほとんどは、Wordを用いたレポート形式がほとんどです。ある程度タイピング技能が求められます。文章のみやすくするための、改行や色分けなどについては、ある程度求められますが、実習指導を繰り返し受ける中で上達していけば良いかと思います。

臨床実習前に準備しておきたいこと

心構え

実習にあたり、まずは事前に病院・施設に連絡をした際に、どんな対象者が主かについて指導を仰ぐことと思います。事前に、どんな対象者を、今から見ていくのか、準備しておく、おかないで、スムーズに実習を進められるか変わってきます。

マナー

一般的ですが、これから指導を仰ごうとしている人の前に立つ時に、髪型、身なりなど、最低限のTPOにそった整容を心掛けてください。最近の学生の傾向として、髪型は問題なくとも、言葉遣いが社会人として不適当なケースが多くみられます。

「~的な感じ」「~っすよね」など。友達と話す時と同じ形式で話す人が多い傾向にあります。社会人として最低限のマナーを守るようにしましょう。

専門知識

専門知識については、はっきり言って、実習前の付け焼刃ではほとんど意味を成しません。入学から実習に至るまで、どれだけ勉学に時間を費やしているかですので、実習前から事前に学習していたとしても実習中に必ずボロが出ますので、これから作業療法を目指そう、もしくは、入学予定の学生は、入学してからすでに実習は始まっているという気持ちを持って日々取り組むようにしてください。

臨床実習で気をつけておきたいこと

急変時対応

「朝起きたら熱があり、フラフラする」なんてことは実習を通して何度か経験することと思います。そんな時、どうすればいいのか、事前に確認をしておきましょう。

大半の学校は、実習の手引き等に段取りが記載されていると思いますが、急変時の対応方法は、実習先に準拠することが多いので、実習が開始したら、バイザー等に確認するようにしましょう。

体調管理

特に、急性期病院に実習配属になった場合、自分が感染媒体になる可能性が非常に高くなります。そんな時、「ちょっと咳き込んでいるけど、しんどくないから大丈夫」と言って、実習にこられると、非常に迷惑な結果を生じることがあります。

実習先によっては、咳が出ているなら実習にはこないでくれと言われる実習先もあります。実習前、実習中は特に、自身の体調管理を徹底するようにしましょう。

報告、連絡、相談

「これくらいならまぁいいか」「たぶん大丈夫」ではなく、少しでも懸念を抱いたのであれば、必ずバイザーに報告しましょう。

臨床実習を体験した現役OTの体験談

実習で苦労したこと

私が学生だった頃の実習失敗談です。

当時18歳、臨床実習の初期でもある、見学実習に挑んだ私は、精神科病院で実習を行っておりました。私が学生の時、前髪が長く、目にかかるほどの長さであったため、横に流す形でピン止めして日常を過ごしていました。当然、実習もそれで参加するつもりでした。

しかし、実習初日、初対面のバイザーから「君そのピン、なんでつけているの?おしゃれ?」と言われ困惑したのを覚えています。「髪の毛が邪魔で・・・すいません、取ります」と答えた私は、若気の至りでしょう、そもそも間違えていました。

バイザーは言いました。「そのピン、患者さんにとられて、自分を刺したりしたらどうするの?それ以前に、実習にくるための髪型がそれってどうだろう」と投げかけられました。その瞬間、自分の甘さを痛感したのを今でも鮮明に覚えています。

学生という立場で病院にこさせてもらっているという意識の甘さ、実習に対する気持ちも十分に整っていなかった自分に腹が立った苦い思い出です。これを機に、学生としてどのように立ち回るべきだろうかと常に考えながら動くように意識していました。

苦い経験でしたが、この経験は、今、自分が学生を指導する立場になって活きているように感じます。

よかったこと

今振り返れば、よかったことは多々あります。実習先で経験した症例や、バイザーの考え方というのは、臨床で働きはじめた時に活きてきます。

特に、臨床1年目の知識も経験も浅い状態だと、こういった経験は自分の仕事の道標になってくれます。あの時、○○先生はこうしたな・・・なら真似てみるか。というふうに、その道標を元に、試行錯誤をしながら自分の治療を確立していきます。

実習中はよかったと思うことはありませんでしたが、後々になって感じることが今でもあります。

実習の乗り越え方

これはほんの一例ですが、実習というのは多かれ少なかれ、バイザーの先生をはじめ、実習先のスタッフから社会人としての叱咤激励を受けることがあります。叱られたときは、意気消沈してしまうことがほとんどです。

しかし、実習はおおよそ2か月続きます。その2か月の間、意気消沈している状態は、自分だけでなく、周りの患者や、バイザーにも負の影響を与えますので、実習を乗り切るうえでよくない状態といえるでしょう。

私は、こんな状況を打破するために、言われたことを箇条書きで、実習ノートのトップに貼り付けておくようにし、常に意識出来て、失敗しないような配慮をしていました。

これは、自分自身が意識をするということにも繋がりますし、バイザーにも「意識して動こうとしている」という意思表示もできますので、両者にとっていい影響を与えた取り組みだと思っています。是非、これから実習に臨む方は、参考にしてみてください。

臨床実習を行う病院(施設)のメリット、デメリット

メリット

① 生涯教育ポイントが取得できる

日本作業療法士協会に属する作業療法士は、生涯教育手帳という手帳を入協後もらいます。また、作業療法士には、認定作業療法士と呼ばれる、各分野に特化した職務を行う作業療法士が存在しますが、その、認定作業療法士を取得するために、日本作業療法士協会主催の勉強会に、一定以上参加する必要があります。


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その勉強会に参加しているかどうかを確認するために、生涯教育手帳が存在します。実習生を見ると、生涯教育ポイントが付与され、認定作業療法士をゆくゆくは取得したいと考えるバイザーには、大きなメリットといえるでしょう。

② 実習生を今後の人員として確保しやすくなる

学生が就職先を探す上で大切にするのは、その職場がどんな職場か知っているということです。その上で、実習で貴重かつ、楽しい体験を経験すれば、必然的にそのまま作業療法士として就職しやすくなります。

この業界は、人員が増えたり減ったりと安定しません。ひとつの場所で生涯やり抜くといった風潮はなく、職場を変えながら己を高めていくような働き方をする人がほとんどです。

そういった背景も考慮すると、学生をそのまま人員として確保するのは、病院としてもメリットになるし、学生にとっても働き方が分かるという点で、メリットになりえるでしょう。

③ 学校とのパイプを作りやすくなる

作業療法士には、臨床家としての作業療法士と、教育家としての作業療法士、そして、両者の側面を併せ持つ作業療法士の3パターンがあると考えています。この3パターンの作業療法士が、成長する上で欠かせないのが、教育機関との連携です。

臨床家の多くは、研究を主に、臨床業務を行っていますが、その上で、データ収集や、設備提供など、大学、専門学校の設備を借りることができるのは大きなメリットになります。実習を通して、実習担当の教員とつながりを持っていることは臨床家として重要なポイントのひとつです。

さらに、教育家としての作業療法士の場合も同様、大学、専門学校との教員とのつながりというのは、今後の臨床から教育の場への転身の際に大きなメリットになりえます。今後の自身の展望を考えた時に、学校とのつながりを持っておくことにデメリットはないでしょう。

④ アウトプットの機会になる

1年~5年目程度のセラピストの場合、就職してから初めてのケースに出会い、その都度勉強をしていきながら知識、技術を深めていきます。この際、勉強したことをアウトプットすることは、知識の定着につながり、自身を高めることができます。

このアウトプットに、実習生は大きく役立ちます。学生にうまく説明できるようになれば、必然的に、患者、利用者に説明しやすくなります。

デメリット

① 残業が増える

日常の業務というのは、基本的に8時半~7時半がほとんどです。(多少前後はするとは思います)その中で、定時ギリギリまで患者対応に追われているのが現状です。

つまり、実習生に対しての指導については、業務終了後になるケースが多く、必然的に残業が増えてしまいますので、こちらについては一番おおきなデメリットといえるでしょう。

② 患者の治療時間が短縮されたり、患者への負担が増える

実習生には必ずケース患者がつきます。そのケース患者を評価、治療するにあたり、必ずリハビリ時間が短縮されたり、余計な時間をとらせることがほとんどです。

そのため、ある程度患者には事前に説明した上で、承諾をとる必要がありますので、学生は、実習にあたって時間をとらせているという認識を持って臨むようにしましょう。

実習でくじけそうになった時は・・・

① 実習とプライベートを線引きできているか確認する

実習でしんどくなってしまう理由の多くは、良眠が出来ていない、家にかえっても実習感覚が抜けないといった理由がほとんどだと思われます。実習は実習、プライベートはプライベートときちんと分けられているか確認しましょう。

あくまで実習は、学校を卒業する上で必要な単位のひとつですので、いい意味で、休みの日はきちんと休むようにしましょう。

② 遊ぶ

病院に実習にきていますので、実習が終わってその帰り道・・・となると不謹慎ですが、ストレス発散をするために一定の節度を守りながら遊ぶのは重要です。2か月以上、慣れない環境下におかれる訳ですから、こういった遊ぶ時間も、実習を成功させるうえで重要になります。

③ 学校の先生に相談する

実習中、何度か実習地訪問という形で、実習地に担当教員がくると思われます。実習地で、知っている顔に会うというのは、砂漠の中のオアシスのようなものですので、非常に精神的に救われます。もし、困りそう・・・と思ったら、うまく説明できなくてもいいので、臨床実習担当の教員に連絡し、助けを求めてください。

これから作業療法士を目指す方へ

作業療法士の仕事というのは、これからどんどん職域が増えていきます。特に、介護業界での作業療法士の活躍の場はどんどん増えることと思います。

地域包括ケアシステムというのをご存じでしょうか。まだ知らない人は是非、こちらを参考にしてみてください。この地域包括ケアシステムが稼働し始めており、今、作業療法士の地域の役割が再認されるようになってきています。

作業療法士をはじめ、コメディカルの仕事は、病院、施設で働いている人が約8割と言われています。しかし、実際には病院でのリハビリ業務は飽和しつつあります。これから作業療法士を目指そうと思っている人は、一度イメージを「病院で働く仕事」から、「地域で働く仕事(介護事業所や、訪問事業所)」に変換して、将来の自分がその現場で働いていると考えて下さい


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2040年には、高齢者が3900万人に上ると言われています。そんな超高齢化社会において、作業療法士が地域でどのような役割を担っていけるかは、今、作業療法士を目指そうと考えているあなたにかかっています。