どちらも医療系の国家資格である理学療法士と柔道整復師。一般的には二つの資格の違いはわかりにくいものかもしれません。それぞれの特徴や共通点について、現役の理学療法士がまとめてみました。
理学療法士と柔道整復師の特徴
理学療法士と柔道整復師は、ともに「徒手療法(ハンドリング)」と呼ばれる、自分自身の手を使って患者さんの身体を回復させていく職業です。しかし、業務内容は大きく異なります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
理学療法士の特徴
理学療法士は、リハビリテーションの専門職の一つです。医師の指示のもとにリハビリテーションを行うことが大原則です。主に病院で提供されるリハビリテーションを担っています。
理学療法士が対象とするのは、ほぼ全ての人と言っても過言ではなく、小児・障害・高齢者の各分野で活躍しています。また近年はスポーツ分野やフィットネス・健康分野、介護予防分野にも進出しています。
発祥はアメリカで、戦争で負傷した兵士の治療の一環として普及していきました。世界各国に理学療法士の資格があります(世界共通ではありませんので、それぞれの国で資格を取得する必要があります)。
柔道整復師の特徴
柔道整復師は医療系の国家資格の一つです。柔道整復師は日本独自の資格で、昔から「ほねつぎ」「接骨師」と呼ばれていた職業です。骨や関節、筋肉などの・異状によって生じる骨折や脱臼、打撲、捻挫などのケガに対して手術をしない「非観血的療法」によって、整復・固定などを行います。「人間の持つ治癒能力を最大限に発揮させる治療」と言われます。
理学療法士と柔道整復師の違い
理学療法士と柔道整復師は、ともに国家試験に合格しなければなることができない国家資格です。国家試験の受験資格に「養成校の卒業」があるため、養成課程のある大学や短大、専門学校に進学する必要があります。
国家資格の違い
共通する分野もある二つの資格ですが、全く別の国家試験です。理学療法士の国家試験は例年2月に行われ、柔道整復師の国家試験は例年3月に行われます。
開業権の有無
理学療法士は、業務を行う上で「医師の指示のもと」で行うことが義務付けられています。理学療法士自身で診断をすることができません。リハビリの前に血圧を測って、もし高ければリハビリを行わないなどの判断をすることは可能ですが、「あなたは高血圧です」ということはできません。それは「診断」に該当するためです。そのため、開業して自分自身で診察や治療を行うことはできません。
一方、柔道整復師は対象となる分野が限られていますが、対象分野においては自分自身で診断を行うことができます。
開業権がありますので自身の接骨院を開業することができます。そのため、理学療法士の資格を持っている人でも、開業するために柔道整復師になる人もいます。
仕事内容の違い
柔道整復師は、主に発症直後の外傷が治療対象です。手術以外の方法で痛みを除去していくことが主な業務内容となります。
理学療法士は、痛みの改善以外にも患者さんの生活環境全般をフォローしています。生活に必要な動作の練習や、福祉用具・住宅改修のアドバイスなど、幅広く担当します。
就職先(活躍している場所)
理学療法士はその大部分が医療機関で働いています。最近では介護分野でもニーズが高まっているため、介護老人保健施設(老健)や、特別養護老人ホーム(特養)、デイサービスなどで働く理学療法士も増えています。
柔道整復師は、主に接骨院で働いています。開業権がありますので、独立して自分の接骨院を持つことも可能です。介護保険サービスにおいて機能訓練加算が取得できるため、デイサービスなども就職先に挙げられます。
また医療機関において、「みなし理学療法士」として一部のリハビリテーション業務を代行することもできるため、整形外科などで働く人もいます。
給与・待遇
理学療法士の平均年収は400万円程度です。柔道整復師は医療機関で勤務した場合は理学療法士と大きく変わらないでしょうが、接骨院で働く場合はその規模によっても差がありそうです。また開業した場合は競争次第となり、実力によって人気が出れば、年収1000万円も夢ではありません。
専門学校や大学
国家試験の受験資格に「養成校の卒業」があるため、どちらの資格も養成課程のある大学や短大、専門学校に進学する必要があります。
理学療法士と柔道整復師の共通点
二つの仕事は、医療系の国家資格であり、安定性の高い職業であるという点では共通しています。
将来性
理学療法士も柔道整復師も、将来なくなってしまうような仕事ではありません。しかし、どちらの分野においても、今現在の業務からいかに新しい分野に進出していけるかが鍵となります。
今後10年、20年の単位では、日本においては高齢者の方へのアプローチが欠かせません。医療保険においては社会保障費の増大の問題から、今後大きく発展することは考えにくい状況です。介護保険分野や介護予防の分野に進出していく必要があると言えます。この点は理学療法士、柔道整復師とも共通の課題です。
仕事のやりがい
どちらも患者さんと一対一でリハビリや治療を行う仕事です。患者さんが元気になっていく姿を見ることができるのは、とてもやりがいを感じます。直接「ありがとう」と感謝されることも仕事の大きな喜びになります。
スポーツ分野での活躍
近年では、プロスポーツの分野においても理学療法士や柔道整復師が携わるケースが増えています。今はまだ決して需要が多いというわけではありませんから、学校を卒業していきなりその道に進むというのは難しいでしょう。まずはそれぞれの資格において、しっかりと経験を積んでいくことで、スポーツ分野での仕事を目指すことができます。
また、理学療法士の協会では、高校野球などの部活動の会場に出向いて、体のケアについて指導するボランティアも行われています。柔道整復師も柔道を通じた青少年の健全育成に取り組んでいます。
理学療法士・柔道整復師の適性
どちらも人の役に立てる素晴らしい仕事ですが、それぞれの仕事に向いている適性について考えてみます。
理学療法士に向いている人
病院でのリハビリは、理学療法士自身ががんばるのではなく、患者さんにいかにがんばってもらうかにかかっています。そのため、相手の気持ちに寄り添うことが重要です。話を聞くことも大切な仕事のひとつ。
柔道整復師に向いている人
開業権の部分でも触れましたが、理学療法士は医師の指示なく「理学療法」を行うことはできないとされています。そのため、理学療法士として自分自身の治療院などを開業することはできません。理学療法士になったあと、開業したくて柔道整復師になる人もいます。
将来、自分の接骨院を持ちたい!という独立意識の高い人は、柔道整復師がお勧めかもしれません。
理学療法士か柔道整復師か迷っている方へ
理学療法士と柔道整復師の違いと共通点について見てきました。どちらも人の役に立つ、人から「ありがとう」と言ってもらえる素晴らしい職業だと思います。どちらかの道に進もうと考えている方の参考になれば幸いです。
筆者自身が理学療法士だからというわけではありませんが、どちらかをより勧めるかと聞かれれば、理学療法士をお勧めします。理由としましては、より患者さんの人生に深く関わることができる点でしょうか。
理学療法士は病気やケガの発症直後から、ずっと患者さんのそばに寄り添っています。リハビリが進んで退院すればその後は外来リハや訪問リハ、介護保険のデイケアなど関わりの舞台も移っていきますが、様々な場面で関わることができるのが理学療法士の魅力だと思います。
どちらの道を目指すかは自分自身で決めることですが、選んでから後悔することがないように、まずはできるだけその仕事について理解することが大切だと思います。必ず学校見学に行きましょう。雰囲気は学校によっても違いますから、通える範囲でいくつか候補があれば全部見比べることをお勧めします。見学したときは、気にあることがあったらなんでも質問してみましょう。
どちらの道を選んでも、同じ医療に携わる仲間として、一緒に患者さんの笑顔のためにがんばっていきましょう!