一昔前に比べると、ずいぶん知名度が上がってきた作業療法士という職業。
ですが、現役作業療法士である私からすると、まだその存在は十分に浸透していないのではないか、と感じています。
現役作業療法士だから言える、苦労ややりがいなど、作業療法士の現実についてお話しします。
作業療法士の苦労「知名度」
作業療法士(OT)は、ドラマなどで扱われることにより、徐々にその知名度が上がってきたように思いますが、まだ十分とは言えません。
では、作業療法士はどのような仕事をし、なぜ知名度が低いのでしょうか?
医師や看護師に比べて知名度が低い
作業療法士が活動できるのは、医師からの指示が出てから、になります。作業療法士のアプローチ(主にリハビリ)が必要とされない限り、クライアント(患者さんなど対象者)が作業療法士と出会うことはないので、医師や看護師に比べるとまだ知名度が低いのが現状です。
作業療法とは
作業療法士が行う作業療法とは何か?作業療法とは、一般的に「リハビリ」という言葉から連想される「体を今より動かせるようにすること」よりもう少し幅広い意味を持っています。
作業療法は、一言でいうと「クライアントの生活の質を向上させる手助けをする」ことです。
もう少し具体的にいうと、生活上全てにおいてクライアントやその周辺の人たちが抱く、「もう少しこれが変われば、より過ごしやすくなるだろう」という不満や希望に対し手助けをする、ということです。
活躍の場は広がっていく可能性が高い
高齢化社会が進み、作業療法士が必要とされる場面は年々増えています。
高齢者に対して作業療法士がアプローチできる場所も、以前は病院か老人保健施設以外にはあまりありませんでした。それが最近は、在宅で生活している人、老人ホームなども作業療法を積極的に利用するようになりました。
また、作業療法士は精神科領域、小児領域でも活躍しています。どちらも、以前に比べ患者さんやその家族が情報を得やすくなったことで、治療者数は増える傾向にあります。そのため、作業療法士の需要も高まっています。
作業療法士になるための苦労
作業療法士は、国家資格です。なりたければ誰でも簡単になれる、という職業ではありません。資格取得までにどのような苦労があるのでしょうか?
学費が安くはない
作業療法士の国家試験の受験資格を得るには、指定の大学、または専門学校を卒業しなければなりません。
国公立の大学は一律ですが、それ以外の医療系の学校は、一般的に学費は高めです。さらに、教科書類も専門書となるため、一冊ずつが高価である場合が多いです。
入試
高校卒業後、大学か専門学校の入試を受けて入学します。専門学校に入学する際は、筆記試験以外に面接があります。
大学の作業療法学科は偏差値が高めのところがほとんどのため、大学受験の勉強も厳しいです。
勉強範囲が広い
大学や専門学校入学後の授業は、教科数がかなり多く、それぞれに試験やレポートがあります。医療分野なので覚えることも非常に多く、毎回の試験には苦労します。
実習や国家試験など
卒業するためには、座学以外に実習もあります。短期間の実習、8週間にわたる長期間の実習、などが数回あります。指導は厳しいところが多く、簡単には合格をもらえないので軽い気持ちでは卒業できません。
国家試験の勉強は、基本的には専門学校や大学で学んだことの総復習となります。受験者の多くは対策のための問題集を徹底的に解けるようにして挑みます。問題集を十分解けるようになれば、傾向は毎年それほど変わっていないので合格する可能性は高くなります。
作業療法士が仕事で感じる苦労
無事に作業療法士の資格を取得して、いざ働くとなると、どのような苦労が出てくるのでしょうか?
自分自身の体力が必要になる
作業療法士は、全身を使う職業です。クライアントの体を触って力をかける、という肉体労働の部分もあれば、クライアントの生活圏に行って様々なアプローチをすることもあります。
また、たとえ軽い風邪とはいえ、医療従事者側がクライアント側にうつすようなことは絶対に許されないので、自身の体調管理に気をつけなければなりません。クライアント側の免疫力が高くない場合、軽い風邪でも大事に至ることがある、という気持ちを持つ必要があります。
精神面の強さが必要になる
作業療法士は何らかの苦しみを持ったクライアントにアプローチする職業であるため、精神的な強さが必要とされます。クライアントの気持ちや状態を理解し、寄り添うことが求められます。ただし、人間の性質として、相手の状態に流されやすい性質があるため、流されないように自分の状態を常に客観視できるだけの強さが必要です。
目に見える成果はすぐにはでない
クライアントへのアプローチにおいて、一回のアプローチで目に見える成果がすぐに出ることはあまりありません。1か月、3か月、半年、さらに1年後までの目標を立てながら進めていく場面も多くあります。目に見えた効果が実感できないと、クライアント自身も作業療法士も落ち込みがちですが、長い目でクライアントを支えていく必要があります。
人間関係(同僚や対患者さん)
どの職業においても言えることですが、クライアントとの人間関係、その周辺の方との人間関係、また職場での人間関係それぞれ難しい部分があると思います。ただ、誰とでも全く問題なくうまくいく人はいないと思います。一人でも多く、良い人間関係を築けるように心がけましょう。
働く場所によっても作業療法士の苦労は異なる
作業療法士の勤務先は様々です。作業療法の目的は同じでも、勤務先によって仕事内容や働き方には大きな違いがあることがあります。どこに就職しても、人間関係の円滑に行うことが必要ですが、それ以外に勤務先によって異なる苦労はあるのでしょうか?
総合病院
総合病院では、作業療法士は脳神経外科や整形外科、精神科や小児などの様々な分野で働くことになります。病院によって形態は大きく異なるので、就職前に見学させてもらうなど、作業療法士がどのように働くのかを調べることをおすすめします。
大きな病院になればなるほど、多職種との連携が重要かつ難しくなることがあります。その場合、作業療法士の人数も多いので、作業療法士どうしの連携をしっかり行う必要があります。
また、各科ごとにより専門的な知識が必要とされることもあります。
介護施設、デイサービス
主に老人保健施設などの施設での勤務が多くなります。作業療法士は入所者・ショートステイ利用者・デイケア利用者への施設での作業療法、さらに施設によっては訪問リハでの作業療法を行います。
クライアントの施設の利用の仕方によって、アプローチのプログラムも様々です。集団リハビリや個別リハビリなど柔軟性が必要となります。
児童福祉施設
小児分野での作業療法は、以前では、脳性まひなど疾患をもつ小児に対する身体機能面へのアプローチや、生活全般に関するアプローチが主な活動内容でした。
最近では、自閉症やADHDなどの様々な発達障害に対する作業療法を行うことも多くなりました。
小児分野の作業療法の多くは、アプローチの間、対象児とともにその保護者が同席することが多いです。そのため、保護者との関係づくりが非常に重要となります。
保護者の精神面のフォローや不安の解消も作業療法士の大事な仕事であると同時に、非常に難しくもあります。他の対象者に比べ、小児期の作業療法でその対象児と保護者の今後の人生が大きく変わる、というプレッシャーを感じることがあります。
精神科
精神科の病院に入院中の患者さんや通院中の患者さんに作業療法を行います。精神疾患をもつ患者さんの場合、急性期といって症状が激しい場合はあまり作業療法を行うことはありません。維持期などと呼ばれる、急性期の状態が落ちついてきてから作業療法を行うことが多くなります。どちらかというと、集団での作業療法が多いです。
ただし、落ち着いた状態が、何らかのきっかけにより激しい症状を発症することもあるので、作業療法士は常に、患者さんの状態を客観的に分析する必要があります。
様々な症状を持ち、他者との関係に困難を抱えている方も多いので、あらゆる場面を想定して患者さんと接する必要があります。そのため、スタッフとの連携が非常に重要となります。
患者さんの状態によって、声かけにも細心の注意を払わなければなりません。
苦労はあるが作業療法士ならではのやりがいもある
人が働く以上、様々な苦労はあります。それを踏まえたうえで、作業療法士のやりがいとはどのようなことでしょうか?
患者さんが喜んでくれる
まずは、クライアントの生活の満足度を高めることを目的とする職業なので、それがうまくいくとクライアントは喜びます。その喜びこそ、作業療法士のやりがいです。
感謝されることが目的となってしまっている作業療法士もいますが、感謝より、まずはクライアントの喜びを共感できることが、作業療法士のやりがいであると考えます。
労働環境が整っている(安定と将来性)
作業療法士は、労働環境においても将来性においても非常に安定した職業です。
国家資格である作業療法士は、資格取得者限定の募集枠で就職するので、一般職などに比べ労働環境は良いことが多いです。作業療法士どうしのネットワークも強く、研修など別の勤務先の作業療法士との連携もできるので、他の勤務先との労働環境を照らし合わせることもできます。万が一、勤務先の労働環境が整っていない、という場合の改善の相談などもしやすくなります。
また、勤務先が自身の条件と合わない(労働環境も含め)となった時、転勤することは難しくはありません。作業療法士の需要はまだ多く、求人も多くあります。焦らず、自分の条件に合う勤務先を探すことが可能です。
まとめ
作業療法士は、資格を取得するのも苦労があります。また、働いた先でももちろん苦労はあります。
しかし、作業療法士のできることは、考え続ける限り無限にあると思います。クライアントの喜びを共有できる瞬間は、本当にうれしいものです。
また、作業療法は、生活に対するアプローチであるため、クライアントの生活をよくするため、と考えたことは、自分の生活にも応用することができます。クライアントの生活をよりよくすることが、自分や家族の生活にも反映できる、素晴らしい職業であると思います。