理学療法士の臨床実習ってどんなもの?学生であれば誰しも気になることでしょう。

この記事では臨床実習とバイザーの両方の経験がある理学療法士が臨床実習では何をするのか、臨床実習に臨む前に知っておきたいこと、気をつけたいことを紹介します。知識を身につけて有意義な臨床実習を送ってください!

理学療法士の臨床実習について

理学療法士養成校では必ず臨床実習が実施され、そこで実践的な力を養います。学校では決して学ぶことができないことを身につけられるため臨床実習はとても重要なカリキュラムなのですが、学生の多くはそれを楽しみにしている一方で全くの未知なる実習に対して大きな不安も抱えています。そこで、まずは理学療法士の臨床実習とは何なのかについて分かり易く説明していきます。

理学療法士の臨床実習とは?

理学療法士の臨床実習とは学生が病院や介護福祉施設などに行き、実際の患者さんを通じて理学療法を学ぶ授業のことです。スーパーバイザーという実習生を担当する先生の指導のもとリハビリなどの見学をしたり、理学療法評価や治療プログラムの作成、治療方法を学びます。

臨床実習は、全員が実施するもの?

臨床実習は全員が実施するものです。理学療法士の国家試験を受験するには臨床実習の履修は必須となります。

実習の実施時期

実習の実施時期は養成校によって異なります。3年制の専門学校であれば3年の前期~後期に行われることが多いです。4年制の専門学校もしくは大学であれば3年後期~4年前期に行われます。

臨床実習を行う場所(施設)

臨床実習を行う場所(施設)は主に病院、クリニック、特別養護老人ホーム、老人保健施設です。病院・クリニックは更に急性期・回復期・慢性期に分類され、また主に通院や入院をする患者さんも各施設によって異なり、小児・障がい者・高齢者・競技者・難病患者など様々です。そのため臨床実習で学べることは施設によって大きく異なります。もし自分が行きたい臨床実習先や学びたい分野がある場合は事前に教員に相談するようにしましょう。

理学療法士の臨床実習で求められること

理学療法士の臨床実習では学生に対して求められることがあります。臨床実習に行く前の心構えとして、念頭に置いておきましょう。

社会人としてのマナー

臨床実習は学校のカリキュラムの1つではありますが、現場です。医師や医療スタッフと連携して、患者さんやその家族と接するため挨拶や時間厳守といった社会人としてのマナーは必須です。

担当患者さんとの信頼関係構築

見学や評価、治療をする上で担当患者さんとの良好な信頼関係構築は欠かすことができません。

理学療法は人の身体(筋肉、関節、病気など)に加えて、心(ニーズ、ホープ、性格、生活の把握など)にもアプローチをしていくものです。信頼関係がなければ身体には触れることも、心に寄り添うこともできません。

臨床実習では学生が担当患者さんとの関係性が築けられないと判断されれば、患者さんのためにも途中で担当を外されます。担当患者さんの話をしっかり聴き、真摯にその心と身体に寄り添って理学療法に臨むようにしましょう。

勉強とレポート作成

担当患者さんの評価・治療プログラムの作成・治療をする上で勉強は必須です。学校で習った基礎医学(生理学、解剖学、運動学など)を勉強しなおしたり、学術情報誌や論文などから臨床的思考を養います。

また自分の実施した評価・治療プログラムの作成・治療経過・治療結果などを客観的に見直すためにレポート作成を宿題として出されます。作成されたレポートはバイザーに確認され、理学療法に関するアドバイスやレポートの書き方に関する指導などを受けます。

臨床実習前に準備しておきたいこと

臨床実習の前にはしっかりと準備をしておきたいことがあります。臨床実習の時にバタバタとしてしまわないようにポイントを押さえておきましょう。

電話挨拶

臨床実習1週間程度前に必ず実習先に電話挨拶をするようにしましょう。学校名、名前、臨床実習開始の日付、簡単な挨拶を伝え、また臨床実習開始にあたって持ってくるべき物、当日の集合場所、集合時間、駐車場の位置などを聞いておくと良いです。電話を掛ける時間帯は昼休み(12~13時)を狙うようにするとスタッフや患者さんへのご迷惑とはならないでしょう。

引っ越し準備

実習先によっては引っ越しが必要な場合もあります。アパートの手配、宿泊先への荷物(生活用品や教科書・参考書)の事前発送、交通チケット購入の準備をしておきましょう。

心身の準備

臨床実習は慣れない環境下での勉強となるためストレスは大きく、心身の準備が必要です。そのため臨床実習前には思いっきり遊んで開放感を満喫しておくのも良いですし、規則正しい生活を送って体調を整えておくのも良いでしょう。

臨床実習で気をつけておきたいこと

臨床実習中にも気を付けておきたいことがいくつかあります。スムーズな臨床実習にするためにも是非守っておくべきポイントを紹介します。

挨拶

出会った人には必ず挨拶をするようにしましょう。現場ではリハビリスタッフはもちろん、医師や看護師、臨書検査技師、放射線技師、ソーシャルワーカーなど色々な職種の人と情報を共有し連携しながら患者さんの退院などを目指します。そのため人間関係の構築はとても重要で、「おはようございます」、「よろしくお願いします」、「ありがとうございました」など誰にでも声を掛けるよう心がけると良いです。

時間を守る

時間を守ることは信頼関係の構築に重要となるポイントの1つです。臨床実習開始時間はもちろんバイザーに時間指定で集合を掛けられることもあれば、患者さんとリハビリ開始時間を約束することもあります。できるだけ時間を守ることができるよう時計は常に意識するようにしましょう。

体調管理

日々の勉強やレポートの作成、そしてストレスで体調管理は難しい状態となります。しかし風邪をひいては患者さんに感染させてしまうリスクが生じます。しっかりとした食事と適度な睡眠をとることを意識して体調管理を徹底させましょう。

交通事故

実習先によっては自家用車で通う場合がありますが、寝不足や疲労、遅刻への焦りから交通事故を起こしてしまう学生がいます。臨床実習中はほぼ確実に交通事故のリスクが高まるといっても良いでしょう。出来る限り公共交通機関を利用し、自家用車の場合は遅刻よりも安全第一で通うようにしてください。

ホウレンソウ(報告・連絡・相談)

何か分からないこと、困ったことが生じたらホウレンソウ(報告・連絡・相談)を守るようにしましょう。体調が良くない、レポート作成が上手くできない、患者さんとの関係が不安、患者さんを触り方が分からない、治療が合っていない気がする、スタッフとの人間関係が上手に築けない…など1人だけで悩んでいては解決しないことがあります。これらを解決する方法を学ぶために臨床実習に行くのであって、何かあればバイザーや学校の先生にまずは報告してみてください。

臨床実習を体験した理学療法士の体験談

10年近く前にはなりますが、私が体験した臨床実習について紹介します。実際の臨床実習はこんな感じなのかな?という参考にしてみてください。

私が体験した臨床実習

私が体験した臨床実習先は小規模都市にある急性期総合病院と田舎にある急性期~慢性期まで請け負う地域中核病院でした。実習先では患者さんのリハビリ実施状況の見学、手術見学、担当患者さんの評価・治療、レポート作成、症例報告を行いました。

臨床実習で苦労したこと

臨床実習中、最も苦労に感じたことは治療です。患者さんの問題点が上手く考えられない、治療法がこれでいいのかも分からない、バイザーに治療法について許可をもらっても本当に効いているのか不安。このような思いから担当患者さんに対して非常に申し訳なく、自分が担当させてもらわなかった方がきっと患者さんは良くなるのにとネガティブに考え込むこともしばしばありました。「患者さんを少しでも良くしないと」と思いつめ毎日、毎日教科書を読み、文献を調べ、レポートを作成して治療について勉強をしていた覚えがあります。

またバイザーに嫌われてしまっては大変だと思い、他人の目も気にするようにもなっていました。

臨床実習を経験してよかったこと

よかったことは患者さんを通じて臨床ならではの考え方やスキルを教えてもらえたことです。話し方、聞き方、表情の察し方、触り方、治療の仕方など机上では決して学ぶことができないことを臨床実習では身につけられます。

また幸いにも担当患者さんと良好な関係を築くことができていたため、「ありがとう」や「お蔭で良くなってきているよ」、「担当してくれて本当に良かったよ」などの優しいお声掛けを頂くこともでき、本当に臨床実習中の励みとなりました。その言葉のお蔭で勉強する意欲も湧き、理学療法に対してもより興味を持つようにもなりました。

私はこうやって実習を乗り越えました

臨床実習はクラスの仲間の力を借りて乗り越えました。可能なときは臨床実習が終わればそのまま学校に行くようにし、一緒に勉強をしたり分からないことを相談したりしていました。仲間と話したり時間を共有したりするだけでもストレスの発散になりますし、頑張って勉強している仲間の姿はモチベーションのアップにもつながります。

また遠方の実習地に配属されたときは、気晴らしとして現地の観光をあえて楽しむようにしていました。

臨床実習を行う病院(施設)側のメリット・デメリット

臨床実習を行う病院(施設)側にもメリット・デメリットがあります。臨床実習というと「学生さん大変ね」と一般的には思われますが、実はバイザーもなのです。

メリット1 採用

実習生が職場の求めている人物像と合致していれば就職試験に受けにくるように誘うことがあります。また実習生を通じて職場の雰囲気を学生側に伝えられることができ、求人確保のチャンスともなります。

メリット2 スタッフのスキルアップ

実習生からは時折鋭く答えにくい質問をされることがあります。バイザー自身、自分の考え方や知識が不足しているということに気づくことができ、勉強するチャンスをもらえます。そのため実習生の受け入れはスタッフのスキルアップにもつながります。

メリット3 職場の適度な緊張感を保つことができる

実習生がくるとスタッフは先輩として良いお手本であろうとするため、適度に緊張感を持ち仕事に臨むことができます。

デメリット1 残業しなければならない

実習生の指導はバイザーが担当する患者さんのリハビリが終了してから行われます。実習生への指導は時間が掛かります。レポートの確認・指導、評価・治療の指導、必要に応じて自分の身体で実技もさせます。指導が終わり実習生を帰らせてからは、自分が担当する患者さんのカルテを打ち、書類作成も行います。そのため実習生を担当するバイザーは残業が多くなりがちです。

デメリット2 実習生担当患者さんの気持ちの把握が必要

患者さんに臨床実習のお願いをするときは事前の説明や同意、そして臨床実習中もその気持ちをしっかり確認しておかなければなりません。そのためバイザーは患者さんの不安、不満、不信感などに対してより一層敏感になりつつ仕事をしています。

デメリット3 ストレスを感じる

実習生を担当するときはストレスを感じることが少なくありません。実習生に指導が上手に伝わらない、患者さんに失礼なことをしてしまわないか、インシデント・アクシデントを起こしてしまわないか、ずっと付きまとわれる…など普段の仕事以上にその神経は張られています。

臨床実習でくじけそうになったときは・・・

臨床実習でくいけそうになることはよくあることです。実際に臨床実習を途中で断念してしまう人もいます。今まで理学療法士になろうという志を持って勉強をしてきたのに臨床実習でくじけてしまっては勿体ないです!ここでは臨床実習でくじけそうになったとき、どのように対処をすれば良いのかを紹介します。

担当患者さんの顔を思い浮かべる

まずは担当患者さんの顔を思い浮かべてみましょう。「良くしてあげたい」という気持ちが必ず湧きモチベーションアップにつながります。

友達に相談する

辛い気持ちを感じるようになったら友達に相談するようにしましょう。思いを口にするだけでもストレスは発散されます。

睡眠時間を確保する

勉強やレポート作成で睡眠時間が十分に確保されていないために、憂鬱な気分になりやすいのかもしれません。ただでさえストレスの多い環境なので、早めに寝てしっかり休む日をつくってください。レポート作成が不十分であっても、バイザーに「気持ちの面で辛く感じてしまいレポート作成に手をつけられなかった」と正直に伝えれば理解をしてくれます。安心してください。

先生に相談する

辛い気持ちが消えなくなってきたら学校の先生にも相談しましょう。先生も心半ばに中退した生徒をしばしばみているはずです。的確なアドバイスをくれたり、臨床実習先に対しても架け橋となって何らかの働きかけをしてくれるでしょう。

バイザーに相談する

辛い気持ちは1人で抱え込まずバイザーにも相談するようにしましょう。相談しにくく感じるかもしれませんが、臨床実習先で最も実習生を守ろうとしてくれている存在です。運悪くバイザーと酷く相性が合わないと感じている場合は、学校の先生に相談してください。

割り切った気持ちをもつ

自分自身がしっかりと割り切った気持ちを持つことが大事です。臨床実習中は「上手くいかない」と思うことがほとんどです。上手くいかせようという向上心を持つことは良いことなのですが、上手くいかないことを後悔したり気にしたりしなくてもいいです。臨床実習なので、大丈夫ですよ。

まとめ:これから理学療法士の臨床実習へ参加する方へメッセージ

臨床実習というと「大丈夫かな!?」と思われる人は少なくないです。知識量、評価・治療法、患者さんとの関係、バイザーやスタッフとの関係など臨床実習開始の日が近づくにつれて不安な気持ちは募っていくことでしょう。しかし、それほど過度に心配する必要はありません。

学生なので分からないことや上手くいかないことがあって当然ですし、何かあれば先生やバイザーに相談してしまっても本当に大丈夫です。安心して、実際の現場で学ぶことができる貴重な時間を有意義に過ごしてください。必ず学校では学ぶことのできないことが学べ、また実習生だからこそ感じられる大切なこととも出会えるでしょう。