理学療法士の仕事内容や医療現場で求められている役割などを、現役の理学療法士が分かりやすく解説してくれます。
理学療法士の役割
理学療法士は、リハビリテーションのプロフェッショナル
理学療法士は、基本的動作能力の回復をサポートする専門家です。ベッドからの起き上がり、腰掛けた姿勢(端座位)の保持、立ち上がりなど、なにか目的があって行う動作の基本となる動きの改善を担当します。
他のリハビリ職種との違い(作業療法士・言語聴覚士)
リハビリテーションにまつわる専門職は、理学療法士(PT)の他に、作業療法士(OT)と言語聴覚士(ST)がいます。理学療法士と作業療法士はある程度共通するところがありますが、主に「基本的動作能力」の回復を担当するのが理学療法士、「応用動作能力」の回復を担当するのが作業療法士と分かれています。また、精神的な疾患をお持ちの患者さんに対して、園芸や陶芸などの作業を通じて心の健康を取り戻すリハビリが、作業療法士の専門分野です。
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言語聴覚士は、主にコミュニケーションにまつわる機能(言葉を利く、話す、読み書き、)についてのリハビリの専門家です。脳出血や脳梗塞などで脳に後遺症を負ってしまうと、「失語」と呼ばれるコミュニケーション能力の障がいが生じます。この点にアプローチするのがSTの主な仕事です。また、食べ物を食べるために噛んだり飲み込んだりする機能の回復を手助けするリハビリもSTの担当分野です。
他の医療系職種との違い(看護師・介護福祉士・柔道整復師)
その他の医療系の職種では、代表的なものとして「看護師」があります。職場によって仕事内容が大きく変わりますが、例として病棟に勤務する看護師の場合は、医師の指示を受けて、バイタル測定や採血、点滴などの医療行為を行います。患者さんの健康管理を担うため、病室ごとに担当制で患者さんの状態変化を記録しています。そのため交代制で24時間勤務があります。
介護の専門職である「介護福祉士」という資格もあります。介護施設において、利用者の生活全般のお手伝いをする仕事です。介護施設は病院よりも病状が安定している人が利用する施設です。
また、理学療法士に近い職種としては、「柔道整復師」という国家資格もあります。柔道整復師も、徒手や電磁治療機などを用いて、患者さんの身体を良い状態に導くお手伝いをしています。特に骨折や捻挫、打撲などの外傷(ケガ)への治療が主な業務です。「接骨院」として開業することができます。
理学療法士の仕事
理学療法士の主な仕事内容
理学療法士の仕事は、患者さん、利用者さんにリハビリを行うことです。リハビリは計画に基づいて進められます。そのため、計画書の作成などの業務もあります。また、カンファレンスや担当者会議など、他職種や家族を交えた会議の場で専門的な視点から意見を述べることもあります。
理学療法士に求められるスキル
理学療法士には、運動学・解剖学・生理学という医学の基本的な知識が求められます。これらは理学療法士になるための養成校で一からしっかりと学びます。その他に課題を見つける洞察力や問題解決力などが、リハビリを進めていく上で求められます。
またリハビリは患者さんと一対一で行う場面が多い仕事でもあります。患者さんは病気になって落ち込んでいたり、将来を悲観してリハビリに前向きになれないこともあります。そんな患者さんの気持ちをリハビリに向かわせることも理学療法士の大事な役割です。そのためコミュニケーション能力も求められます。
様々な場面で活躍する理学療法士
急性期病院での仕事
急性期病院とは、病気やケガなどが起きた時、救急車で最初に運ばれる病院です。重い病気の場合は手術をしたりして、「生命の危険」を回避するのがその役割です。患者さんが意識不明であっても病状によってはリハビリを行うことがあります。これは、なるべく早い段階からリハビリを開始したほうが、より良い状態まで回復できることがわかっているためです。
身体の関節は動かさないでいると動きにくくなってしまいますし、寝たきりでは筋力も落ちてしまいます。それを防ぐためのリハビリが主な仕事となります。患者さんの状態に合わせて、より動作練習に近い内容のリハビリをする場合もあります。
回復期病院での仕事
回復期病院は、急性期病院で状態が落ちついた患者さんが転院して、集中的にリハビリを行うための病院です。ここで3ヶ月から半年ほどの期間、リハビリを行い、自宅へと退院することを目指します。入院時の患者さんの状態(年齢や後遺症の程度、筋力などの要素)と、退院後にどんな暮らしをするか(仕事に復帰するかどうかや、身の回りの世話をしてくれる家族が居るかどうか、自宅の環境など)に合わせて、リハビリの目標であるゴールを定めます。
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その後は入院期間中、ゴールに向かって毎日リハビリを行います。初めは筋力や関節の動きを回復させる基本的なものから始まり、徐々に複雑な動作の練習に移っていきます。リハビリ期間はある程度決まっていますので、どこまでリハビリが進むかを冷静に予想し、自宅の回収など環境整備をアドバイスする場合もあります。
介護・高齢者施設での仕事(生活期)
医療の分野だけでなく、介護の世界においても理学療法士が活躍しています。中でも介護老人保健施設(老健)には必ずリハビリ職がいます。回復期病院でのリハビリが終わっても自宅に帰れなかった人へのリハビリを行います。また通所リハビリといって、自宅から通って来る人へのリハビリもあります。
その他、デイサービスや特別養護老人ホーム(特養)などにおいても、理学療法士が機能訓練を提供する施設が増えてきています。
訪問リハビリ
訪問リハビリは、患者さんの自宅に訪問して行うリハビリです。病院、老健のどちらからも派遣される仕組みがあります。患者さんが毎日生活している場で行うので、生活の中で困っていることを見つけやすいのが特徴です。それを解決するためのリハビリを提供するだけでなく、住宅改修や家族の方への介護のアドバイスを行うこともあります。
福祉施設(児童福祉施設など)
生まれながらに心身に障がいのあるお子さんを対象にした、小児分野のリハビリを担当している理学療法士もいます。小児リハビリは理学療法士の中でも志望する人が多い分野の一つです。
スポーツ分野の仕事
プロ野球やJリーグなどのプロスポーツクラブでは、専属の理学療法士が専門的な知識を活かして選手の体のメンテナンスに携わっています。また、学校の部活動をボランティアとしてサポートしているPTもいます。
その他
公務員として福祉課などで勤務する理学療法士もいますし、5年以上の経験を積んでから試験を受け、ケアマネジャーになる人もいます。どちらも直接患者さんへのリハビリは行いませんが、専門的な知識を活かして業務に当たっています。
理学療法士とチーム医療
チーム医療とは
チーム医療とは、医師を中心にして看護師、理学療法士などのリハビリ職、管理栄養士、医療相談員などが連携して患者さんの治療・回復に当たる仕組みです。
チーム医療で理学療法士が担う役割
チーム医療において、リハビリを担当するのは理学療法士をはじめとするリハビリ専門職です。リハビリの進行状況や今後の見通しは、患者さんへの治療方針を決める上でも重要です。理学療法士の専門知識がチームの中で存在感を発揮します。
理学療法士ならではのやりがい
仕事のやりがい、魅力
理学療法士の仕事のやりがいは、やはり患者さんが回復して、できなかったことができるようになることです。一番身近に見ていますから喜びも大きいですし、患者さんから感謝されることも嬉しいですね。
やりがいを感じたエピソード
病院で勤務していた頃、初めて自宅に帰るまで担当させてもらった患者さんのことは忘れられないエピソードです。退院前の自宅に何度も伺って家の図面を起こし、家の配置に合わせた大きさの福祉用具を使って、リハビリの時間に歩行練習を繰り返しました。無事に退院した後、自宅にお邪魔して、一緒に一生懸命リハビリしていたことが自宅でもしっかり出来ていたことに感動しました。あれから何年も経っていますが、今でもいい思い出になっています。
理学療法士のワークライフバランス
仕事と給与・待遇
理学療法士の仕事は、医療機関や介護施設での勤務が一般的です。給与は看護師よりやや低いですが、一般的な収入と言えます。待遇面では産休・育休や短時間勤務などが取りやすい環境であることが多いです。
「出世」という観点では、リハビリ部門の管理者を目指すことになります。規模が大きくリハビリ職員の人数が多い場合は、初めのうちは給与水準が低くても、経験を積むことで昇給に期待ができます。
労働時間、家庭プライベートとのバランス
理学療法士は基本的に患者さんと一対一で行うリハビリがメインの仕事です。またカルテへの記入や計画書の作成などの書類仕事もあります。日中の時間にリハビリの予定が詰まっていると、書類の仕事は後回しになり、残業して行う場合もあります。しかし、毎日帰宅が深夜になるようなことはないでしょう。
理学療法士は資格を取ってからも勉強が続きます。様々なジャンルの研修会、勉強会がありますし、医学書を買って勉強することもあります。そのため休みの日に研修に行くこともありますし、自己投資のためのお金もかかります。家庭がある理学療法士にとっては、そのバランスを取るのが難しい場合もあるかもしれません。
理学療法士のキャリアアップ
専門職としてのステップアップ
理学療法士には、全国的な協会組織があり、その中で資格を取ってからもステップアップしていくことができる仕組みがあります。スタートは「新人教育プログラム」に参加します。新人のPTは各都道府県で開催されている研修に参加し、この中で理学療法士としての基礎的な内容について学びます。
必要な単位数の研修に出席すると、「新人教育プログラム修了者」となり、その後は「基礎理学療法」、「教育・管理理学療法」など計7つの専門分野の中から、自分で好きなものを選んで「認定理学療法士」や「専門理学療法士」を目指すことになります。
テーマごとの研修に参加したり、学会で研究発表を行い、試験を受けて合格すると、晴れて「認定理学療法士」・「専門理学療法士」になることができます。
それ以外にも、理学療法士の世界にはいろいろな治療法があり、興味があるものの研修に参加して、その技術を学んでいる人も多くいます。インストラクターに認定されると教える立場になることができるので、場合によっては海外まで研修を受けに行く人もいます。
リーダー、部門長へのステップアップ
理学療法士として経験を積んでいくと、職場の中で上に立つ役割を任されるようになります。病院の規模によっても違いますが、リーダークラスになると、実際のリハビリの現場から少し離れた管理者としての業務が増えてきます。
近年、理学療法士の人数が急速に増えていることや、働く人の出入りが激しいことなどから、あまり経験がないうちに職場で最もキャリアが長い職員になってしまい、リーダー役を任されてしまうというケースも見受けられます。
転職
医療業界は、働く人の出入りの激しい仕事です。理学療法士にとっても転職は珍しいことではありません。仕事が大変だから転職する、という以外に、「この分野について学びたいから、専門のあの病院に行きたい!」とか、「急性期で一通り経験したから、次は回復期だ!」など、前向きにステップアップを目指した転職も多くあります。その意味では、次の仕事がなかなか見つからない、ということはあまりありません。
独立開業
理学療法士の業務は、「医師の指示の元で行う」と法律で定められています。そのため「○○理学療法所」のような形で独立することはできません。整体など、国家資格が必要でないものであれば開業することもできますが、医師のいない状態では「理学療法士が治療します!」と言った宣伝文句もNGとされています。理学療法士の中には、理学療法士のスキルを活かしつつ、独立開業するために、開業することができる国家資格の「柔道整復師」資格を追加して取得する人もいます。
その他(教員やセミナー講師)
理学療法士の養成校は全国にあります。そのため、教員の需要が常に一定数あります。卒業した学校で教員になる卒業生も少なくありません。教員になっても、リハビリの現場からは離れないように、病院勤務と兼務する人もいるようです。
また経験を積んで介護教室の開催や介護職員向けのセミナー講師などで活躍している人もいます。直接患者さんに行う行為でなければ、先ほどの「医師の指示の元」という条件は必要ありませんので、講師業を営むことは可能ということです。
まとめ:理学療法士は魅力ある仕事!
理学療法士になって良かったと思うことは、患者さんから感謝されることです。順調にリハビリが進めば、患者さんは退院します。退院はとても嬉しい反面、その患者さんとは会えなくなってしまうさみしさもあります。その気持ちを患者さんも感じてくれていて、涙の別れになることもたくさんあります。
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理学療法士の活躍の場はどんどん広がっています。病院だけでなく、介護の分野、さらには介護予防の分野にも進出しています。働く場所や、対象となる相手は変わっても、患者さんに一対一でじっくりと向き合い続ける限り、患者さんにとってかけがいのない頼りになる存在であり続けることと思います。
資格を取るまでは決して簡単な道のりではありませんが、将来はだれかの役に立ちたい!と考えている人には、文句なくおすすめします。あなたも理学療法士を目指してみませんか?