理学療法士は大変やりがいのある仕事ですが、一方で苦労を感じることもあります。低い知名度、理学療法士になる大変さ、理学療法士になってからの困難。実際に経験してみないと分からない苦労とやりがいを、医療・介護分野での勤務経験がある理学療法士がお教えします!

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理学療法士の苦労「知名度」

理学療法士は一昔前では「理学療法士って何?」と言われるほど、存在すら知られていませんでした。今では「リハビリ職」という認識はもってもらえるようになりましたが、まだまだ知名度の低い職種です。仕事をしていると知名度が低いからこそ生じる苦労といくつか遭遇することがあります。

医師や看護師に比べて知名度が低い

理学療法士の知名度は医師や看護師に比べて低いです。そのため職種を聞かれたときに「理学療法士」と答えても「リハビリの…?」という程度の認識はあるものの、何をしている職業なのかはいまいち理解してもらえていません。

これは一般の方だけではなく同業者であっても同様で、職場では理学療法士の仕事ではないなというような業務を依頼されることがあったり、他職種からはカルテ上で“理学療法士”のことを“作業療法士”や“言語聴覚士”と記載されてしまうことがあります。

理学療法士ならではの検査・治療技術もある

理学療法士の知名度は低いものの、理学療法士には理学療法士ならではの検査・治療技術があります。

検査ではその人の身体の機能がどの程度なのかを詳しくチェックすることができます。関節の動き方や柔軟性、筋力、姿勢、また整形外科疾患や脳血管疾患の簡易検査もすることがあります。治療では電気や赤外線といった物理療法、ストレッチや筋トレといった運動療法、他に様々な手技を駆使します。

仕事内容を理解してくれている人は少ないですが専門性ある職種で、医療分野における身体構造・機能のスペシャリストといえます。

活躍の場は広がりを見せている

理学療法士の活躍の場はより一層の広がりを見せており、特に最近では介護予防分野での理学療法士の活躍が目立ちます。

介護予防分野は理学療法士が積極的に介入するようになり、当初では法的制度の関係から“理学療法士”と名乗ることもできないことがありましたが、今では平成25年に厚労省から出された通達により介護予防分野で理学療法士と名乗れるようになりました。これは国が介護予防分野における理学療法士の活躍を認めたということだと言われています。

また他にも理学療法士のスポーツ分野への進出もみられるようになりました。プロスポーツチームやオリンピックの専属トレーナー、子どものスポーツクラブなどで指導をしている理学療法士が、少数派ではありますが存在します。十分に活躍できている分野ではありませんが、高齢者人口のピークは2040年と言われているなか、高齢者以外の若い年齢層を対象とした新しい分野への進出は大きな意味を持っていると言えます。

理学療法士になるための苦労

理学療法士になるのにも苦労があります。学費、勉強、実習、国家試験…他の学部ではないような大変さを経て理学療法士になることができます。

学費が安くはない

理学療法士養成校の学費は決して安くはありません。国公立の学校であれば250万円程度、私立の学校であれば350~800万円程度の学費が必要です。ただし金銭面の理由から養成校に通えないということはなく、各学校における入学金・授業料免除制度、奨励金や奨学金の利用をすることで学費負担を軽くすることができますよ。

勉強範囲が広い

理学療法士の勉強範囲は広いです。生理学、病理学、運動学、解剖学などの基礎医学から学び、理学療法学、理学療法評価学、理学療法概論、日常生活動作学、実習といった臨床医学を勉強していきます。また勉強内容も小児~高齢者、そして整形外科、内科、神経内科、脳神経外科、外科などあらゆる分野の勉強をしなければなりません。

実習や国家試験など

理学療法士になるためには実習と国家試験を通過しなければなりません。この2つは理学療法士学生にとっての最大の難関です。

実習は大変厳しいところが多く、休む間もなく勉強をし、レポートを作成し、そして患者さんに対して理学療法を実践します。初めてのことばかりなので緊張し、病院での実習を行っているだけでも疲弊するのに、帰宅後も勉強をしなければ翌日の実習に対応できなくなります。実習はその大変さから途中でリタイアしてしまう人もいます。

また国家試験は合格率が70%程度で、年々の試験難易度が上がってきています。勉強範囲も広いため、十分な対策をしなければ、まず合格はできません。

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理学療法士が仕事で感じる苦労

理学療法士は仕事を始めてからが1番苦労を感じます。正直、私の場合は「こんなに大変な仕事だったのか!」と就職をしてから感じました。実際に働いたからこそ感じた苦労をご紹介します。

勉強・技術向上

理学療法士の場合は例え国家試験を通過できたとしても、実践的な知識・技術は全くをもって不十分です。患者さんや利用者さんにより適切な理学療法をするためには常に勉強し、技術を磨いていかなければなりません。そのため多くの理学療法士は仕事が終わった後も資料を読んだり、同僚と一緒に模擬治療をして技術向上をはかったり、休日に研修に出かけたりしています。

気づけば患者さんや利用者さんのことを考えている

人にもよるところではありますが、仕事以外の時間であっても気づけば患者さんや利用者さんのことを考えているということがあります。理学療法効果が上がらない方や何らかのトラブルがある方を担当した時は休日であっても頭を抱えることとなります。

患者さんや利用者さんの希望と家族の希望が違う

臨床の現場に立っていると患者さんや利用者さんの希望と家族の希望が合致しないというケースに遭遇することがあります。具体的に言うと患者さんや利用者さんは「散歩に出かけたい」と言っているのに対し、家族は「危ないから家にずっと居てくれ」というようなケースです。

例え意見が食い違っても、双方の意見を汲みながらリハビリを行わなければなりません。双方の希望を理解して、折り合いをつけるのも理学療法士としての仕事のうちとなります。

その人の人生と向き合う

理学療法士は患者さん・利用者さんの人生と向き合い仕事をします。体調が良い時もあれば悪い時も、重い障害を負うことになったときも、余命が告げられたときも、また亡くなられる前日であってもリハビリ職員として関わっていることがあります。どのような時であっても患者さんや利用者さんの想いや希望を尊重し、より良く暮らしていけるようにと考えて仕事をしていくため、仕事をしていれば悩むことも辛く感じることもあります。

私の経験ですが、若くして難病にかかり、発症時よりリハビリを担当していた方がいました。出来なくなることが増えるなか、どう難病と向き合い、どうしたらよりラクに、楽しみながら生活ができるのか、一緒になって頭を抱え、そして笑いながらリハビリをしていました。しかしその方は発症より約3年で亡くなられました。

理学療法士は患者さんの人生における貴重な時間を共有できる仕事です。しかしその分重みのある仕事だと、この経験を通じて感じています。

自分自身の体力が必要になる

理学療法士は知的労働者である一方、「白衣の土方」と表現される程の肉体労働者でもあります。重介助の方を担当することも多く、理学療法士自身の体力が必要です。体力づくりが上手くいっていないと、理学療法士であっても介助をきっかけに腰痛を発症してしまう人もいます。

理学療法士の仕事は相手のコンディショニングを整えていくことですが、まずは自分自身のコンディショニングを整えることが大事な仕事だと言われています。

患者さんと長い付き合いになることも

介護系勤務であれば特になのですが、理学療法士は患者さんや利用者さんと長い付き合いになることがよくあり、担当してから10年以上経過しているという人たちもいます。相性が悪くなければ良いのですが、時には合わないこともあり、それをストレスに感じているというスタッフもいます。

働く場所によっても理学療法士の苦労は異なる

理学療法士が感じる苦労は働く場所によって異なります。働く場所は大まかに医療分野と介護分野に分けられますが、この2つの分野は仕事内容が大きく異なるので苦労するポイントにも明確な違いがあります。

医療分野(病院、クリニック)

医療系勤務の場合、急性期病棟担当であればとにかくたくさんの患者さんを担当し、そして日々新しい患者さんを次々と受け持ちます。体力も必要ですし、対応力も求められます。ハイリスクの患者さんも多いので、仕事中は緊張感が続きます。また急性期病棟は慌ただしため、スタッフ(特に看護師さん)はピリピリとしていて怖いです。

回復期病棟担当であれば患者さんの担当は少ないですが、退院日までに出来るだけ本人の状態ならびに周辺環境を整えなければならないので、幅広い知識が必要になります。また退院には家族との連携も欠かせません。ケースとしては少ないですが、人間関係で苦労が生じるときもあるでしょう。

介護分野(デイサービス、特別養護老人ホームなど)

介護分野の場合は維持期を対象としたリハビリならではの苦労があります。維持期は利用者さんの機能回復の望みが薄い時期です。しかしそのなかで身体の状態と向き合い、その人らしく生きていく方法を考えなければなりません。幅広いものの見方が求められ、養成校で習ったことはそのままではなかなか通用しません。

また介護分野の場合、職場によってはリハビリ業務に専念できない場合もあります。人員の少ない施設では送迎や後片付け、その他リハビリ以外の業務を任されることがあります。

苦労はあるが理学療法士ならではのやりがいもある

理学療法士の仕事は苦労がありますが、やりがいのある仕事です。理学療法士が理学療法士を続けるのは、苦労以上のやりがいを感じられているからなのです。

患者さん、利用者さんから感謝される

理学療法士の仕事は患者さん、利用者さんから感謝されます。ケガや病気の予防に貢献できたり、痛みを良くしたり、身体を動けるようにしたり、したい事を叶えるお手伝いができたり…仕事を通じて相手の役に立つことができ、「ありがとう」という言葉を直接頂くことができます。

理学療法士には様々な苦労があるものの、やはり相手の役に立ち、そして喜んでもらえることが1番のやりがいで、理学療法士を続ける上での大きな原動力となっています。

労働環境が整っている

理学療法士の主な職場は病院や介護福祉施設なので、労働環境が整っているところが多いです。職場は清潔感があり、適温で、お昼休憩も取れ、過剰な残業を強いられることもありません。給料やボーナスも大幅にカットされるということは少なく、休日出勤もほとんどありません。大変優れているわけでもありませんが、不満が募るような労働環境ではありません。

まとめ

理学療法士は資格を取得する過程も、そして資格を取得してからも苦労を感じることがあります。養成校では学費負担が大きく、勉強量も多く、実習も大変です。働いてからは自分の知識や技術向上に忙しく、また人間関係に悩まされることもあります。

しかし現場の理学療法士はそれ以上のやりがい感じて、日々仕事に励んでいます。また“苦労”は“自己成長につながるもの”として捉えることができ、理学療法士ならでは面白味として感じている人もいます。

苦労は他者の感じ方をそのまま受け取るのではなく、その中身をしっかりと把握した上で、自分の考え方や価値観と照らし合わせて判断してみるとよいでしょう。

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