高校生を対象とした調査では理学療法士は就きたい職業ランキング7位で、今や理学療法士は社会的認知が高まり人気のある職業だと言えます。しかし一方で現役の理学療法士は給与、残業、実際の休日、将来性など抱える不満は多くあります。
魅力が多いと思われている理学療法士の一般的には知られていない不満を、実際に医療現場・介護現場の両方で勤務したことのある理学療法士が具体的にご紹介します。
現役理学療法士が感じている不満ポイント
1.給与
理学療法士の給与は悪くはありませんが、決して良いものではありません。
平均年収は約405万円で、年代別にみると20~24歳は330万円、25~29歳は388万円、30~34歳は417万円、35~39歳は443万円、40~44歳は466万円、45~49歳は490円、50~54歳は537万円、55~59歳は553万円で昇給の期待値は低いです。
患者数を多く診たから、スキルが高いからといって給料が上がるわけでもありません。
独身であれば生活に困ることはないですが結婚をして子供が生まれると理学療法士1人だけの給与では徐々に経済面での不安を感じるようになり、共働きで家計をやりくりするという選択肢を強いられます。
2.勉強会が多い
理学療法士の業界は知識やスキル習得のために勉強会が頻繁に開催されます。勤務先によっては業務終了後に勉強会が開催されて帰宅は夜中というところもあります。また勉強会の準備は持ち回りのことが多く、準備担当になれば残業をしなければなりません。
これら勉強会開催による残業は手当が支給されれば良いのですが、ほとんどの勤務先では一定時間のみ手当支給、もしくは全く支給されません。理学療法士としての質を高めたい気持ちはあっても、それに伴う待遇面でのメリットがあまりに少ないように感じられます。
3.休日が少ない
理学療法士は休日も知識やスキル習得のために時間が費やされます。休日に現場で分からなかったこと(解剖学、生理学、運動学、治療法…)を調べたり、研修に参加することもしばしばです。これらは自主的に取り組むこともあれば、上司の勧めでということあります。
また理学療法士の主な勤務先となる病院や老人保健施設の多くが365日運営されているため、盆や正月にまとまった休日を取ることは難しいという勤務先もあります。
4.体力が要る
勤務先によっては重介助の患者さんや利用者さんを多く担当することがあり体力が必要となります。介助はやり方次第で力はそれ程必要ないとも言われますが、それでも介助量が多い方を主に担当していると体力の消耗は激しいです。年齢や身体の状態によってスタッフ間で相談しながら担当が割り振りされるものの、毎日ヘトヘトで帰宅をする場合もあります。
5.人間関係
理学療法士は多くの人とコミュニケーションをとる仕事です。患者さんや利用者さんはもちろん、家族、他リハビリスタッフ、医師、看護師、ソーシャルワーカー、ケアマネージャー、介護士、福祉用具専門相談員などとも密に連絡を取り合います。そのなかで、相性が合わない相手と仕事をしなければならないことも高確率で生じてきます。
6.理学療法士としての将来性
理学療法士の給料の基となる診療報酬が引き下げられている点、養成校乱立による理学療法士数の増加している点から理学療法士の将来性を不安視している人が少なくありません。診療報酬が引き下げられては多くの理学療法士が不満として感じている給与の改善は見込むことができず、また理学療法士数が安易に増加しては将来的に理学療法士の需要に対して供給が上回ることが考えられるため更なる待遇悪化や求人倍率の低下が生じるのではと予期されています。
それでも理学療法士を続ける理由
1.仕事内容
不満がありつつも理学療法士を続ける1番の理由は、仕事内容にあります。
理学療法士は自分の持つ知識やスキルで患者さんや利用者さんの苦しみを取り除いてあげることができます。例えば肩が痛くて動かせず手が上がらないという人に対して理学療法を行えば、肩を痛みなく自由に動かせる状態まで改善させられるということがよくあります。自分の腕で人の痛みや動きを改善させられるので非常にやりがいは感じられます。
また痛みや動きが改善させられればその人の生活の質も向上します。先ほどと同様に肩の例で言えば、肩が痛ければ着替えること、物を持つこと、髪を洗うこと、背中をかくこと、子どもの抱っこ、スポーツなど日常生活において様々なことが難しく感じるようになり、当然精神的にもストレスを抱え込んだ状態となります。しかし理学療法で肩の状態を改善させられればその人はこれらストレスから解放されてイキイキと楽しみながら生活することができます。
「楽に着替えられるようになったわ」、「孫を抱っこしてあげられるようになったの」、「野球で遠投ができるようになったよ」などその人が嬉しそうな顔で日常生活変化を報告してくれるとこちらも嬉しく、良かったねと喜びを一緒になって共有することができます。
また勤務先によっては自分が講師となって地域の人などに対して健康のための講演会を行うことができます。講演会によって地域の方々とのつながりができますし、また予防的観点からその人たちの健康作りのきっかけになれることも理学療法士としての仕事に感じられる魅力の1つです。
2.安定性
理学療法士の求人は多くあるため職に困らないという安定感があります。また大幅な給与削減やリストラに合うということもほとんどないため、その安心感から理学療法士を続けているという人もいます。
3.職場復帰しやすい
出産や育児などをきっかけに職場を一度離れたとしても、理学療法士の求人は十分にあるため職場復帰はしやすいです。また正社員以外にもパートの需要もあり、その時給は2000円前後なので他職種のパートに比べれば好条件のものがほとんどです。ライフスタイルの変化が大きい女性にとって職場復帰がしやすい理学療法士はワークライフバランスを保ちやすい職種と言えます。
不満が解消しなければ転職も考えよう
理学療法士として働いていて不満を感じる状態が続くようであれば転職というのも1つの手段です。
仕事内容に魅力を感じられない、待遇に満足できない、人間関係に強いストレスを感じているという状態が続くようであれば転職を判断しても良いでしょう。理学療法士の場合、職場を変えるだけで仕事内容や待遇、人間関係はガラリと変わります。
医療に携わるのか介護に携わるのかで仕事内容は大きく異なりますし、給与は病院やクリニック勤務より訪問リハビリ勤務の方が高い傾向があります。勉強会も医療系勤務より介護系勤務の方が少ない傾向がみられます。また人間関係は職場によって様々です。
もし理学療法士そのものに魅力を全く感じなくなってしまったのであれば業界を変えての転職も視野に入れても良いでしょう。少数派ではありますが理学療法士から全く別分野へと転職した人もいます。魅力を感じずとも就職に困ることのない理学療法士の資格は他分野への転職を決意するのに十分な保険として役立てられるでしょう。
マイナスなイメージに惑わされないで
インターネットでは“理学療法士”と検索をすれば“理学療法士 やめとけ”というワードが検索候補とあがってくることがあり、「理学療法士になりたいけれどもマイナスなイメージを抱いてしまった…」という人も当然いるでしょう。
理学療法士が不満を抱えているという点は事実で、特に給与面に関しては実際に働いていた現場でも満足できないとよく話題にあがっていました。理学療法士の不満ポイントに目を向けずに安易な気持ちで理学療法士を目指すと、実際働いたときとに想像とのギャップが生じてしまい落胆するでしょう。
しかし現場スタッフたちはいくつか不満を抱くことはありつつも理学療法士としての仕事に魅力を感じ、日々やりがいを持って楽しみながら仕事に臨んでいます。理学療法士が不満に感じるポイントを把握することも重要ですが、それを理解した上で理学療法士として働く魅力についても目を向けてみてください。
マイナスなイメージだけに惑わされずプラスの両面もしっかりと考慮をして、理学療法士が自分に合った職業なのかどうかを判断するとよいでしょう。
あとがき
理学療法士は仕事に対して不満を抱えていることは事実です。給与は決して高くはなく、勉強会で残業を強いられることもあれば、休日が研修に充てられることもあります。
しかし給与は生活ができなくなるほどの薄給ではなく、勉強会や研修では新たな知識の発見が面白く患者さんに得た知識を還元することで自身の仕事に対する満足感を高めることにもつながります。ご紹介した理学療法士が不満と感じるポイントは捉える人によっては不満に感じなかったり、仕事に対する満足感につながっていることもあります。
理学療法士として働くデメリットに着目することは仕事選びにおいてとても重要です。しかしマイナスイメージだけに支配されず、一方にあるこの仕事のメリット、また自分の理学療法士になりたいという気持ちを大事にして理学療法士という仕事について考えてみると良いでしょう。